介護業界における人材不足は年々深刻化しています。これに対し政府は外国人介護人材の活用を促進する政策を次々と打ち出し、その一環としてこれまで施設内サービスに限られていた技能実習生の訪問介護への従事が解禁されました。
この制度改正は深刻化する介護人材不足への対策として期待を集める一方、訪問介護特有の課題も浮き彫りになっています。
本記事では訪問介護事業所が技能実習生を受け入れる際の実務的な課題とその対応策、事前に整えるべき体制、さらには特定技能との違いについて最新の情報と実践的なアドバイスをお届けします。これから技能実習生の受け入れを検討している訪問介護事業所の経営者の方々に、ぜひ参考にしていただきたい内容です。
株式会社BKUのご紹介
株式会社BKUは、ミャンマーの送り出し機関と日本国内の登録支援機関を運営する人材紹介会社です。ミャンマー人材の文化・言語などの理解はもちろん、外国人材の紹介から採用、入国手続きまで一貫してサポートできることが当社の強みです。
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この記事の監修者

伊勢明敏
株式会社BKU代表取締役|日本で光学機器メーカーで研究職として4年間従事。その後ミャンマーに移住して、株式会社BKUを創業。9年間の在住中では、外国語大学と仏教大学にてミャンマーの言語・文化を専門的に学習。ミャンマーの言語・文化・制度すべてに精通した人材紹介から、累計400名以上の技能実習生・特定技能人材の送り出し実績を持つ。
介護現場の人手不足はどれくらい深刻?対策は外国人介護士?
介護業界における人材不足は危機的な状況に達しています。厚生労働省の推計によれば2025年には約32万人、2040年には約69万人の介護人材が不足するとされています(※1)。この深刻な状況を打開するため、政府は外国人介護人材の受け入れ拡大に舵を切りました。
特に訪問介護分野は、その特性ゆえに人材確保がより困難であり今回の技能実習生受け入れ解禁は業界にとって大きな転換点となるでしょう。
では、具体的にどのような状況なのか最新のデータと共に見ていきます。
※1引用元:令和6年高齢社会白書(概要)
数字で見る介護業界の現状
引用元:公益財団法人介護労働安定センター 令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について
介護労働安定センターが発表した令和5年度「介護労働実態調査」によると介護事業所の約64.7%が「人材が不足している」と回答しています(※2)。特に小規模事業所ほどその割合は高く訪問介護では実に70%以上の事業所が人材不足を訴えているのです。不足している職種としては訪問介護員(ホームヘルパー)が最も多く、次いで介護職員となっています。
人材不足の理由「採用が困難である」という回答が最も多く、その背景には「同業他社との人材獲得競争が激しい」「他産業に比べて、労働条件等が良くない」などの要因があります。
また、離職率についても全産業平均を上回る14.5%と高い水準にあり特に訪問介護では16.0%と更に深刻な状況です。 このような状況下で介護事業所は様々な対策を講じています。
- 「労働条件・処遇の改善」
- 「職場内の親睦を深める」
- 「職場内の研修の充実」
それでも人材確保は容易ではありません。 そこで注目されているのが外国人介護人材の活用です。政府もこの流れを後押しするため在留資格の拡充や要件緩和を進めています。
※2引用元:公益財団法人介護労働安定センター令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について
なぜ訪問介護は特に人材不足が深刻なの?
訪問介護が特に人材不足に悩まされている理由はいくつか存在します。
訪問介護が特に人材不足に悩む理由
- 身体的・精神的負担が大きい
- キャリアパスの不透明さ
- 高いスキルが求められるが処遇が十分でない
- 一人で利用者宅を訪問し様々な状況に即座に対応する必要があるため、判断力や対応力が求められるのです。また、移動時間が労働時間に含まれにくい賃金体系や、天候による業務への影響などの不安定要素も存在します。
- 施設介護では、経験を積むことでリーダーや管理職への昇進という明確なキャリアパスがある場合が多いですが、訪問介護ではそうしたステップアップの機会が限られています。これが若い世代の参入を妨げる一因となっているのです。
- 訪問介護は利用者との一対一の関係性が基本となるため、コミュニケーション能力や臨機応変な対応力がより強く求められます。このような高いスキル要求に対して処遇が十分でないという現実も、人材不足を加速させている要因でしょう。
こうした状況に対応するため訪問介護事業所は様々な工夫を凝らしています。
- シフト制の柔軟化や移動時間の効率化
- ICTの活用による業務効率化など
しかし、それでも根本的な人材不足は解消されていません。そこで新たな打開策として期待されているのが外国人材の活用なのです。
介護分野で働ける在留資格について
介護分野で外国人が働くための在留資格は主に以下の4つが挙げられます。
- 「介護」
- 「特定技能」
- 「技能実習」
- 「EPA(経済連携協定)」
「介護」
介護福祉士の国家資格を取得した外国人に与えられるもので在留期間の更新に制限がなく、家族の帯同も認められています。最も安定した立場で介護業務に従事することができる資格と言えるでしょう。
「特定技能」
人材不足が深刻な産業分野で即戦力となる外国人材を受け入れるための制度です。介護分野では「特定技能1号」があり、介護技能評価試験と日本語評価試験に合格することが条件となります。在留期間は最長5年で、基本的に家族の帯同は認められていません。
「EPA」
インドネシア、フィリピン、ベトナムとの経済連携協定に基づく枠組みで、介護福祉士候補者として来日し、一定期間の就労・研修後に介護福祉士国家試験に合格することを目指します。合格すれば「介護」の在留資格を取得できます。
「技能実習」
開発途上国への技能移転を目的とした制度で最長5年間、日本の介護施設等で実践的な技能を学ぶことができます。これまで訪問介護への従事は認められていませんでしたが、制度改正によりついに解禁されたのです。
それぞれの特徴を理解することが、適切な外国人材の受け入れにつながります。
技能実習生が訪問介護で注目されているワケ
技能実習生の訪問介護への参入が注目されている理由はいくつか挙げられます。
技能実習が訪問介護で注目されている理由
- 新たな制度設計を必要としない
- コミュニケーション面での不安が軽減
- モチベーションが高い
技能実習制度は既に構築された受け入れ体制があるため施設での受け入れノウハウが蓄積されています。これを訪問介護に応用できれば、比較的スムーズな導入が期待できるのです。 技能実習生は入国時点で一定の日本語能力(N4相当以上)が求められ来日後も日本語学習を継続するため、ある程度の日本語力が担保されています。
また、実習計画に基づいた体系的な研修を受けることで介護技術の習得も期待できます。
さらに、技能実習生は「母国への技術移転」という明確な目的を持って来日するため、真摯に学ぶ姿勢や異文化への適応能力の高さは介護現場において貴重な存在となるでしょう。
このように、技能実習生の訪問介護への参入は単なる人手不足の解消策に留まらず、業界全体の活性化や国際化にも寄与する可能性を秘めているのです。
そもそも「技能実習制度」とは?訪問介護との関連性を再確認しよう!
技能実習制度について改めて理解を深めることで、訪問介護分野での受け入れの意義がより明確になるでしょう。この制度は単なる労働力確保の手段ではなく、国際貢献と技能移転を目的とした制度であることを念頭に置く必要があります。特に介護分野は高齢化が進む開発途上国にとっても重要な技術であり、日本での実習経験が母国の介護水準向上に寄与することが期待されているのです。
ここでは、制度の基本から訪問介護との関連性まで確認していきましょう。
技能実習制度の目的と仕組みをわかりやすく解説
技能実習制度は1993年に創設された制度で開発途上国等の外国人を日本に受け入れ、日本の業等に関する技能、技術または知識を習得してもらい母国の経済発展を担う人材育成を目的としています。国際貢献を掲げた日本独自の制度であり、単なる労働力不足解消の手段ではない点が重要です。
技能実習生の受け入れ方法には、「企業単独型」と「団体監理型」の2種類があります。「企業単独型」は、日本の企業が海外の現地法人・合弁企業等の職員を受け入れる方式です。
一方、「団体監理型」は事業協同組合などの監理団体が技能実習生を受け入れ、傘下の実習実施企業で技能実習を行う方式です。介護分野では主に後者の形態が一般的となっています。
技能実習の期間は、第1号技能実習(1年目)、第2号技能実習(2〜3年目)、第3号技能実習(4〜5年目)と段階的に分かれています。介護職種の場合、入国時にN4相当以上の日本語能力と一定の介護知識が求められ、実習開始後6ヶ月(実習時間320時間)以上経過するまでは利用者の居宅においてサービスを提供することはできません。
技能実習制度全体を監督するのは外国人技能実習機構(OTIT)です。実習計画の認定や実習実施者・監理団体への監査を行い、技能実習生の保護と適正な実習の実施を確保しています。
このような重層的な管理体制により、技能実習生が適切な環境で技能を習得できるよう配慮されているのです。
施設介護と訪問介護の制度上の違い
施設介護と訪問介護にはサービス提供の場所や方法、必要なスキルなど様々な違いがあります。これまで技能実習生は施設介護のみに従事が限られていましたが、その背景には両者の特性の違いがありました。
施設介護と訪問介護の制度上の違い
項目 | 施設介護 | 訪問介護 |
---|---|---|
サービス提供場所 | 介護老人保健施設等の施設内 | 利用者の自宅 |
業務形態 | 複数スタッフによるチームケア | 基本的に一人での訪問 |
指導体制 |
・常に先輩職員が近くにいる ・相談しやすい環境 ・複数職員による指導が可能 |
・基本的に単独行動 ・同行指導の特別な仕組みが必要 ・定期的な振り返り時間の確保が重要 |
環境の特性 |
・設備や器具が整っている ・比較的コントロールしやすい環境 ・標準化された介護技術を学びやすい |
・各家庭により環境が異なる ・限られた設備での対応力が必要 ・臨機応変な対応が求められる |
技能実習生の従事条件 |
・比較的早期から従事可能 ・段階的に技術習得が可能 |
・実習2号以降(一定期間の経験後) ・N3以上の日本語能力 ・同行期間の設定義務 |
訪問介護は基本的に一人で訪問するため、その場で判断し対応する能力が求められます。また、各家庭によって環境や介護方法が異なり、利用者や家族との一対一のコミュニケーションも重要になってきます。このような特性から、これまでは日本語能力や介護技術がまだ発展途上にある技能実習生には難しいと考えられていたのです。
制度上も施設介護では複数の職員による指導体制が整いやすい一方、訪問介護では同行指導の仕組みを特別に整える必要があります。 このような違いを踏まえ今回の制度改正では、技能実習生が訪問介護に従事するための特別な条件や研修体制が設けられています。これにより、技能実習生が安心して訪問介護のスキルを習得できる環境が整いつつあるのです。
特定技能制度との違いも押さえておこう
介護分野における外国人材の受け入れ制度としては、技能実習制度のほかに特定技能制度も重要な選択肢となっています。両者の違いを理解することで、自社に合った外国人材の受け入れ方法を選択することができるでしょう。
特定技能制度と技能実習制度の比較
項目 | 特定技能制度 | 技能実習制度 |
---|---|---|
制度の目的 | 人材不足が深刻な特定産業分野における即戦力となる外国人材の受け入れ | 開発途上国への技能移転による国際貢献 |
創設時期 | 2019年4月 | 1993年(制度化) |
資格要件(介護の場合) |
• 介護技能評価試験と日本語評価試験に合格 • または介護分野の技能実習2号を修了 |
入国時にN4相当以上の日本語能力が必要 |
在留資格 | 特定技能1号 | 技能実習1号・2号・3号 |
在留期間 | 最長5年(更新の回数制限なし、通算5年まで) | 最長5年(1号1年、2号2年、3号2年) |
業務内容(介護) | 原則として介護のすべての業務に従事可能(訪問介護も含む) | 計画に基づいた段階的な技能習得(業務範囲に制限あり) 訪問介護は一定条件を満たす必要あり |
キャリアパス | 技能実習終了後に特定技能へ移行可能 | 特定技能へ移行可能 |
特定技能制度は、人材不足が深刻な特定産業分野における即戦力となる外国人材の受け入れを目的としています。一方、技能実習制度は前述のとおり、開発途上国への技能移転による国際貢献が主目的です。
資格要件においても違いがあります。技能実習生は入国時にはN4相当以上の日本語能力が求められますが、特定技能は試験に合格すれば良いため、より実務能力が重視されます。
業務内容については、特定技能は原則として介護のすべての業務(身体介護、生活援助、その他関連業務)に従事可能であり、訪問介護も含まれています。一方、技能実習生は計画に基づいた段階的な技能習得が目的であるため、業務範囲に制限があり、訪問介護への従事も一定の条件を満たす必要があるのです。
在留期間は、特定技能1号が最長5年、技能実習も最長5年(1号1年、2号2年、3号2年)となっています。ただし、特定技能は更新の回数制限がなく(通算5年まで)、技能実習終了後に特定技能へ移行することも可能です。これにより、最長で10年程度の在留が可能となります。
このように、両制度には目的やしくみに大きな違いがあります。自社の状況や目的に合わせて適切な制度を選択することが重要です。
技能実習と特定技能の違いについての詳細は、「介護分野での特定技能と技能実習の違いは?制度から選定方法まで徹底解説」をご参照ください。
技能実習生による訪問介護への従事が解禁に!制度変更の背景とは?
厚生労働省は技能実習生の訪問介護への従事を認める制度変更を発表しました(※3)。これまで技能実習生は施設内サービスに限定されていましたが、この変更により訪問系サービスにも携わることが可能になったのです。この転換の背景には深刻化する介護人材不足と技能実習生の介護技術向上への期待があります。
では、具体的にどのような経緯で制度が変更されたのか、そして訪問介護業界にどのような影響をもたらすのかを見ていきましょう。
※3引用元:厚生労働省 外国人介護人材の訪問系サービスへの従事について
政府の方針転換とその理由
政府がこれまでの方針を転換し技能実習生の訪問介護への従事を認めることになった背景には複数の要因が存在します。
技能実習生が訪問介護へ従事できるようになった理由
- 訪問介護分野における深刻な人材不足
- 施設介護での技能実習の実績が蓄積されてきたこと
- 施設介護だけでなく訪問介護の経験が重要
- 介護サービスの担い手を確保する
多くの技能実習生が日本の介護技術をしっかりと習得しコミュニケーション能力も含めて高い評価を得ているという実績が、今回の制度拡大を後押ししました。
さらに、母国に持ち帰る技術として様々な環境での介護スキルを習得することは、技能移転という制度本来の目的にも沿うものです。 2025年には団塊の世代が全て後期高齢者となり、介護需要がさらに増加する「2025年問題」を目前に控え政府は外国人材の活用を含めた様々な施策を打ち出しているのです。訪問介護への技能実習生の受け入れ解禁もその一環と位置づけられます。
このような複合的な要因を背景に政府は従来の方針を見直し、技能実習生の訪問介護への道を開くことになったのです。
技能実習生が訪問介護に関われるようになるまでの流れ
技能実習生が訪問介護に従事できるようになるまでには、段階的なプロセスが設けられています。
- 入国後講習(介護導入講習)を受ける
- 施設内での基本実習を6ヶ月以上(320時間以上)行う
- 複数の指導員による能力評価を受ける
- 評価に合格したら、訪問介護の専門研修を受講する
- 研修修了後、訪問介護の業務に従事できるようになる
まず、入国時には日本語能力N4相当以上が求められ、介護に関する基本的な知識も必要となります。来日後は施設内で基礎的な介護技術を学びます。
実習開始から6ヶ月以上(実習時間320時間以上)が経過し、かつ実習実施者(受け入れ企業)による評価において「複数の指導員による評価」と「利用者の状態像に応じ、基本的な介護を一定程度実践できる段階」であると認められた場合に、初めて訪問介護に従事することが可能となるのです。
訪問介護に従事する最初の間は、必ず日本人の介護職員が同行し指導を行うことが義務付けられています。具体的には、第1段階として「同行訪問(日本人職員が必ず同行)」を一定期間行った後、第2段階として「一人での訪問(ただし日本人職員がすぐに駆けつけられる体制を整備)」へと移行します。
また、訪問介護に従事するための特別な研修も義務付けられています。この研修では、訪問介護特有の知識や技術、緊急時の対応、コミュニケーション方法などが学べるよう設計されているのです。
さらに、日本語能力を向上させるための継続的な学習支援も重要な要素です。
受け入れ側の訪問介護事業所にも、技能実習生を受け入れるための体制整備が求められます。指導員の配置や研修プログラムの策定、緊急時の支援体制構築など、様々な準備が必要となるでしょう。
これらの条件をクリアすることで技能実習生は訪問介護の現場で技術を習得しながら、人材不足の解消に貢献することができるのです。
制度変更が訪問介護業界に与える影響は?
技能実習生の訪問介護への参入が解禁されたことで業界にはさまざまな影響が予想されます。
訪問業界に与える影響
- 人材不足の緩和
- サービスの多様化や質の向上
- 受け入れ側の負担増加
特に地方や過疎地域など、日本人スタッフの確保が困難な地域では技能実習生の存在が訪問介護サービスの維持・継続に大きく貢献する可能性があります。 一方で、受け入れ側の負担増加も避けられません。
- 日本語教育の支援や同行指導の体制整備
- 文化的な違いへの配慮など
これまで以上に手厚いサポートが必要となり、特に小規模な事業所では体制を整えるための人員や資金の確保が課題となるかもしれません。 メリットを最大化し課題を最小化するためには先進的な取り組みを行う事業所の事例から学び、自社に適した受け入れ方法を模索することが重要でしょう。
技能実習生が訪問介護で働くために必要な条件と準備とは?
技能実習生が訪問介護で働くためには特定の条件を満たす必要があります。
また、受け入れ側の訪問介護事業者も適切な体制を整備しなければなりません。公益財団法人国際人材協力機構(JITCO)の指針に基づき、技能実習生と受け入れ事業者双方に求められる条件と準備について詳しく見ていきましょう。
※4引用元:JITCO公益財団法人 国際人材協力機構 【技能実習 介護職種】訪問系サービスへの従事が認められました
受け入れに必要な研修や資格について
技能実習生が訪問介護に従事するためには、いくつかの段階的な研修や条件をクリアする必要があります。
- 入国後講習(介護導入講習)を受ける
- 施設内での基本実習を6ヶ月以上(320時間以上)行う
- 複数の指導員による能力評価を受ける
- 評価に合格したら、訪問介護の専門研修を受講する
- 研修修了後、訪問介護の業務に従事できるようになる
まず初めに、「入国後講習(介護導入講習)を受ける」ですが、介護職種の入国後講習(介護導入講習)を受講することが義務付けられており、日本の介護保険制度の概要や介護の基本理念、介護技術の基礎などを学びます。
次に「施設内での基本実習を6ヶ月以上(320時間以上)行う」について、実習開始後は施設内での実習を通じて基本的な介護技術を習得します。訪問介護に従事するためには、実習開始から6ヶ月以上(実習時間320時間以上)が経過していることが条件です。
「複数の指導員による能力評価を受ける」は、訪問介護従事の前に実習実施者による評価において、「複数の指導員による評価」と「利用者の状態像に応じ、基本的な介護を一定程度実践できる段階」であると認められる必要があります。
また、訪問介護に特化した追加研修も必須です。「評価に合格したら、訪問介護の専門研修を受講する」では、訪問介護の特性や一人で訪問する際の注意点、緊急時の対応方法、利用者・家族とのコミュニケーション技術などを学びます。
資格については技能実習生には特定の国家資格は求められていませんが、実習期間中に介護職員初任者研修や実務者研修などの資格取得を支援する事業所も増えています。これらの資格は、将来的に特定技能への移行や介護福祉士資格の取得を目指す上で役立つでしょう。
技能実習生自身も積極的に学ぶ姿勢と日本の文化や習慣への適応力が求められます。特に訪問介護では、様々な家庭環境に対応する柔軟性も必要です。
訪問看護事業者が整えておくべき受け入れ体制
訪問介護事業者が技能実習生を受け入れるにあたっては様々な体制整備が必要です(※5)。
指導体制の構築
技能実習責任者、技能実習指導員、生活指導員をそれぞれ選任し役割分担を明確にする必要があります。特に技能実習指導員は、訪問介護の実務経験が豊富な人材を配置することが望ましいでしょう。
訪問介護特有の指導計画の策定
施設内実習で基礎を固めた後、どのように訪問介護の技術を段階的に習得させるか具体的な計画を立てる必要があります。例えば、最初は比較的安定した状態の利用者宅への訪問から始め、徐々に対応の難しいケースへと移行していくといった工夫が考えられます。
同行支援の体制を整える
技能実習生が一人で訪問できるようになるまでは日本人職員が必ず同行し指導を行います。その後も、定期的な同行訪問や振り返りの機会を設けることが重要です。さらに、一人で訪問する際には、緊急時にすぐに駆けつけられる体制(例えば携帯電話での連絡体制や近隣にサポート職員を配置するなど)を整備することが義務付けられています。
コミュニケーション支援
利用者や家族に対しては技能実習生の受け入れについて事前に説明し、理解を得ることが必要です。また、コミュニケーションを円滑にするための工夫(例えば、よく使う単語や表現をまとめた対訳集の作成など)も効果的でしょう。
技能実習生の生活面でのサポート体制
住居の確保や生活環境の整備、日本での生活に関するオリエンテーションなど仕事以外の面でのサポートも重要です。特に地方での生活となる場合は、買い物や交通手段などの情報提供も必要でしょう。
このような包括的な受け入れ体制を整備することで、技能実習生が安心して訪問介護のスキルを習得できる環境が実現します。
※5引用元:JITCO公益財団法人 国際人材協力機構 【技能実習 介護職種】訪問系サービスへの従事が認められました
OJT・同行支援の重要性
技能実習生が訪問介護の現場で実践的なスキルを身につけるためには、OJT(On-the-Job Training)と同行支援が極めて重要です。特に訪問介護は、一人ひとりの利用者の状況や環境に合わせた個別対応が求められるため、座学だけでは習得できない要素が多く含まれています。
OJT
- 教科書では学べない臨機応変な対応力や状況判断力を養うことができる
- 利用者や家族とのコミュニケーションの取り方を習得できる
例えば、限られたスペースでの介助方法や利用者の生活習慣に配慮したサービス提供など、現場でしか学べない技術が数多く存在します。また、利用者や家族とのコミュニケーションの取り方も、実践を通じて習得していくことが効果的です。
同行支援
- 「なぜそのような対応をするのか」という理由や考え方を伝える
- 訪問後のフィードバックの時間を設ける
- その日の訪問を振り返り良かった点や改善点を話し合う
- 技能実習生の精神的なサポートにもなる
例えば、ある利用者に対して特定の介助方法を選択する理由や、コミュニケーションの際に気をつけるべきポイントなど、背景にある考え方を共有することで技能実習生の理解度が格段に深まります。
また、訪問後のフィードバックの時間を設けることも効果的です。その日の訪問を振り返り、良かった点や改善点を話し合うことで、技能実習生の気づきを促進し次回の訪問に活かすことができます。
同行支援は技能実習生の精神的なサポートにもなるでしょう。一人で訪問することへの不安や緊張を軽減し、徐々に自信をつけていくプロセスをサポートする役割も果たします。
OJTと同行支援は技能実習生の実践的スキル向上だけでなく、精神的な安定や職場への適応においても重要な役割を果たすのです。
ハラスメントや相談体制の整備も義務化へ
技能実習生を受け入れる事業所には、ハラスメント防止対策や相談体制の整備も義務付けられています。これは技能実習生の権利を守り安心して実習に専念できる環境を整えるために不可欠な要素です。
ハラスメント防止対策
- 事業所内での研修や啓発活動
- 問題や悩みを相談できる体制の構築
- 定期的な面談
- 外部機関との連携
全職員を対象に文化的背景の違いによる誤解が生じやすい点や、無意識の差別的言動について理解を深める機会を設けることが効果的でしょう。特に、「日本ではこれが当たり前」という感覚で技能実習生に接することが、知らず知らずのうちにハラスメントにつながる可能性があることを認識する必要があります。
厚生労働省は、技能実習生のメンタルヘルスケアにも注目しています。言語や文化の違い、家族や友人との分離など、技能実習生は様々なストレス要因を抱えています。そのため、ストレスサインを見逃さない観察力と適切なサポートを提供できる体制が求められるのです。
さらに、各地域の外国人技能実習機構(OTIT)の相談窓口や自治体の外国人支援センターなど、外部の専門機関の情報を技能実習生に提供し事業所内だけでは解決できない問題にも対応できるようにしておくことが大切です。
このようなハラスメント防止対策や相談体制の整備は単に法的義務を果たすためだけでなく、技能実習生が安心して能力を発揮し成長できる環境を作るために不可欠な要素なのです。
【技能実習生の訪問介護受け入れ】現場ではどう進んでいる?
技能実習生の訪問介護への従事が解禁されてから、現場ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。制度が始まったばかりということもあり、まだ試行錯誤の段階ではありますが、先進的な取り組みを行っている事業所も登場しています。
ここでは、技能実習生の訪問介護受け入れに関する現状や実例を紹介します。事業者の関心度や実際に受け入れを進めている事例から今後の展望まで幅広く見ていきましょう。
訪問看護での技能実習生受け入れに前向きな事業者はどれくらい?
訪問介護における技能実習生の受け入れに関して、業界内での関心は徐々に高まりつつあります。公益社団法人全国老人福祉施設協議会が実施した調査によれば、訪問介護事業所の約35%が技能実習生の受け入れに「前向きに検討したい」と回答しています。特に人材不足が深刻な地方や過疎地域の事業所では、その割合がさらに高くなる傾向にあるようです。
一方で、「慎重に検討したい」という回答も約40%を占めており、多くの事業所が様子見の姿勢を示しています。
その理由としては、
- 「受け入れ体制の整備に不安がある」
- 「コスト面での懸念がある」
- 「利用者や家族の理解が得られるか不安」
特に小規模な事業所では、同行指導に必要な人員確保や研修体制の構築が課題となっています。
また、すでに施設介護で技能実習生を受け入れている法人においては、技能実習生の受け入れノウハウを持っていることから訪問介護への拡大を検討する割合が高くなっています。
業界団体や監理団体も説明会やセミナーを開催するなど制度の周知と理解促進に努めており、今後は先行事例の共有や好事例の横展開を通じて、より多くの事業所が技能実習生の受け入れに前向きになることが期待されているのです。
すでに訪問介護で活躍している技能実習生の実例を紹介!
制度が開始されてまだ間もないものの、すでに訪問介護の現場で活躍し始めている技能実習生の事例が報告されています(※6)。
【事例1】
A県の訪問介護事業所ではフィリピン出身の技能実習生2名が活躍しており、彼らは施設介護で1年間の経験を積んだ後、訪問介護に従事しています。
当初は日本人スタッフとともに訪問し、実際の現場で業務の流れを把握していきました。
彼らの明るい性格と真摯な姿勢が利用者から高く評価されており、言葉の壁はあるもののコミュニケーションツールや簡単な日本語、身振り手振りを組み合わせながら少しずつ信頼関係を築いています。
【事例2】
B市の訪問介護事業所では、ベトナム出身の技能実習生が活躍中です。
この事業所では実習生が単独で訪問する前に利用者宅の環境や特性、注意点などをまとめた「訪問ガイドブック」を作成し、事前の理解を深める取り組みが行われています。
さらに、スマートフォンのアプリを使って、訪問中に困ったことがあれば即座に日本人スタッフへ相談できる体制も整えられました。
こうした丁寧なサポートにより、実習生は不安を抱えることなく業務に取り組めています。
【事例3】
C町の訪問介護事業所では、インドネシア出身の技能実習生が特に入浴介助の場面で高く評価されています。
この実習生は母国で看護師としての経験があり、身体介護の基本的な技術が身についていました。
さらに、来日後の研修を通じて日本式の入浴介助を学び、現場では丁寧かつ効率的な介助を実践しています。利用者からは「とても丁寧で安心できる」といった声が寄せられ、当初感じられていた不安もすっかり解消されました。
これらの事例に共通するのは受け入れ側の入念な準備と継続的なサポート、そして技能実習生自身の意欲の高さです。特に、コミュニケーション面での工夫や、段階的な業務拡大の計画が、成功のカギとなっているようです。
今後はこうした成功事例が広く共有され、より多くの事業所が技能実習生の受け入れに取り組むことで訪問介護における人材不足の解消につながることが期待されます。
※6引用元:NHK 【詳しく】訪問介護ヘルパーできる外国人材対象拡大へ
人手不足の突破口に?訪問介護で技能実習生を受け入れる3つのメリット
訪問介護事業所にとって技能実習生を受け入れることには様々なメリットがあります。人材不足の解消という直接的な効果だけでなく、職場環境の活性化や多様性の促進など多角的な視点から考えることが重要です。
ここでは、技能実習生を訪問介護で受け入れる際の主な3つのメリットについて詳しく解説します。これらのメリットを理解することで技能実習生受け入れの意義をより深く認識し、効果的な受け入れ計画を立てることができるでしょう。
メリット①人手不足の即戦力として期待できる
訪問介護分野における人材不足は喫緊の課題であり、技能実習生の受け入れはその解決策となる可能性を秘めています。
即戦力として期待できる理由
- 来日前に自国で基礎的な介護知識や日本語を学んでいることが多い
- 入国後も体系的な研修を受けている
- 一般的に若く体力がある
- 新しい環境への適応力や学習意欲が高い
特に身体介護の基本動作や生活援助の技術については施設介護での経験を通じて習得しているため、それらを訪問介護の場面に応用することは十分に可能です。
さらに、技能実習生の受け入れは既存の日本人スタッフの負担軽減にもつながります。慢性的な人手不足により、一人あたりの業務負担が増大している現状を改善し、より質の高いサービス提供を可能にする効果も期待できます。特にシフト編成の柔軟性が高まることで、スタッフ全体のワークライフバランスの向上にも寄与するでしょう。
ただし、即戦力として期待する一方で適切な研修と段階的な業務移行が重要です。最初から難易度の高いケースを任せるのではなく、基本的なケースから始め、徐々に経験を積ませていくことで、着実に戦力化を図ることができます。
このようなプロセスを経ることで技能実習生は訪問介護の現場で確かな力を発揮し、人材不足解消の一翼を担うことができるのです。
メリット②多文化共生が生み出す利用者との新たな信頼関係
技能実習生を訪問介護で受け入れることの二つ目のメリットは多文化共生による新たな価値の創出です。異なる文化的背景を持つ技能実習生が介護現場に加わることで、利用者との間に従来とは異なる形の信頼関係が生まれる可能性があります。
多くのアジア諸国出身の実習生は高齢者を敬う文化を持ち、その誠実な姿勢が利用者の信頼を獲得しています。
また、外国人との交流は特に地方の高齢者にとって知的刺激となり生活の質向上につながります。言葉の壁があっても表情やジェスチャーなどの非言語コミュニケーションが心の通じ合いを深め、これは認知症の方との関わりにも効果的です。 多文化共生は人手確保だけでなくサービスの質的向上にもつながる重要な要素なのです。
メリット③多様な人材が職場にもたらすプラス効果
技能実習生の受け入れが職場全体にもたらす活性化効果も重要なメリットの一つです。異なる文化や価値観を持つ人材が加わることで職場の雰囲気が変わり、既存のスタッフにも良い刺激となる可能性があります。
技能実習生を訪問介護で受け入れる際に知っておくべき課題とリスク
訪問介護における技能実習生の受け入れが可能となり人材確保の選択肢が広がった一方で、施設内サービスとは異なる独自の課題が存在します。訪問介護は利用者の自宅という私的空間でのサービス提供となるため、より高いコミュニケーション能力や状況判断力が求められるのです。
また、1対1の対応が基本となることから実習生が孤立しやすい環境でもあります。
特に初期段階では言語や文化の違いによる誤解、緊急時の対応能力、移動手段の確保など様々な問題に直面する可能性があるでしょう。
詳しくは「【トラブル事例あり】介護施設が直面する技能実習生の7つの問題」をご参照ください。
言葉や文化的な違いにどう対応するか
訪問介護の現場で技能実習生を受け入れる際、最も大きな壁となるのが言葉と文化の違いです。施設内であれば周囲の日本人スタッフがフォローできますが、訪問介護では実習生が一人で利用者と向き合わなければならない場面が増えます。
特に高齢者との会話では方言や独特な表現が用いられることも多く、教科書的な日本語学習だけでは対応しきれない状況が発生します。
- 実習開始前の日本語研修の徹底
- 携帯型の翻訳機器やアプリの活用
日常会話レベルではなく、介護現場特有の専門用語や高齢者との会話に特化した学習プログラムを用意することが効果的です。また、携帯型の翻訳機器やアプリは緊急時やニュアンスの伝達が難しい場面での補助ツールとして役立ちます。
- 日本の高齢者が持つ価値観や生活習慣に関する事前教育を行う
例えば、入浴や食事、プライバシーに関する考え方は国によって大きく異なります。ある実習生受け入れ事業所では、実習生の出身国と日本の高齢者ケアの違いをテーマにしたワークショップを定期的に開催し、相互理解を深める取り組みを行っています。
また、利用者側への働きかけも忘れてはなりません。外国人ケア提供者に対する理解と協力を得るため、事前に丁寧な説明を行い、コミュニケーションに時間がかかる場合があることへの理解を求めましょう。実際に、利用者と実習生の間に予想外の良好な関係が生まれ、異文化交流の場となったという事例も報告されています。
このように言語と文化の壁は確かに存在しますが、適切な準備と相互理解の促進によって乗り越えられるものです。むしろ異なる文化的背景を持つ実習生の存在が、サービスの多様性を高める可能性もあるのではないでしょうか。
詳しくは「外国人介護士とのコミュニケーションを円滑にするには?現場で役立つ実践ポイントを紹介」をご参照ください。
緊急対応が必要な場面への不安
訪問介護における最大の懸念事項の一つが緊急時の対応です。利用者の急な体調変化や事故、災害時など即座に適切な判断と行動が求められる場面で、言語的制約のある技能実習生が対応できるのかという不安は当然のことでしょう。 特に訪問介護では施設内と違って同僚やスーパーバイザーにすぐに相談できる環境にありません。
主な懸念点
訪問介護における技能実習生の緊急対応に関しては利用者の急な体調変化や事故発生時の対応、言語的制約がある中での適切な判断と行動が大きな不安要素となっています。特に施設内と違って同僚やスーパーバイザーにすぐに相談できない環境であることが課題です。
効果的な対策
- 段階的な訪問体制の構築
実習初期段階では必ず日本人スタッフと同行訪問する体制を整えることが基本です。
- 多言語マニュアルの整備
緊急対応マニュアルを多言語化し、さらにイラストや写真を多用して直感的に理解できる内容にすることが効果的です。言語に依存しない資格的な指示書を準備することで咄嗟の判断をサポートします。
- 定期的な訓練の実施
実際の緊急場面を想定した実践的な訓練を定期的に行い、言葉に頼らなくても適切な行動が取れるよう体に覚えさせることが大切です。
- 通信手段の確保
スマートフォンのビデオ通話機能を活用し緊急時にはすぐに事業所と連絡が取れる体制を構築します。「ワンタッチ通報システム」の導入など、テクノロジーを活用した安全対策によりg農実習生の不安軽減とリスク低減を図ることができるでしょう。
これらの対策を組み合わせることで、言語的制約を持つ技能実習生でも安全に訪問介護に従事できる環境を整えることが可能になります。
訪問ならではの移動や運転業務の制限
訪問介護ならではの課題として移動手段の確保と運転業務の制限があります。技能実習制度では原則として実習生による自動車の運転は認められていません。これは安全面での懸念に加え運転という特定技能の習得が実習の本来の目的ではないという理由からです。
しかし、訪問介護では利用者宅間の移動が業務の重要な部分を占めており、この制限は大きな課題となります。
移動に関する対策
- 公共交通機関を利用可能なエリア設定をする
駅やバス停から徒歩圏内の利用者を担当させることで移動の問題を軽減できるでしょう。
- 自転車の活用
安全講習を実施した上で近距離の移動手段として自転車を提供している事業所もあります。
- 送迎担当車を配置する
実習生を各利用者宅に送り、サービス提供後に次の訪問先へ移動させる専任スタッフを確保します。コスト面での負担は増しますが実習生の移動に関する不安を解消できます。
また、利用者宅への直行直帰ではなく、一度事業所に集合してから複数の実習生をまとめて送迎するという方法を採用している事業所もあります。これにより移動の効率化を図るとともに、日々の業務開始前のミーティングで情報共有や指示伝達の機会を確保することもできるでしょう。
長期的には在留資格の変更により運転が可能になることも視野に入れることができます。技能実習から特定技能へ移行した場合、一定の条件を満たせば自動車運転が認められる可能性があります。キャリアパスの一環として将来的な運転業務への従事も計画に入れておくとよいでしょう。
技能実習生の受け入れ前に整えておきたい!訪問介護事業者が整えるべき体制とは?
技能実習生を訪問介護の現場で受け入れるためには、事前の綿密な準備と体制構築が不可欠です。闇雲に採用するのではなく自社の受け入れ能力を冷静に分析し、必要な準備を段階的に進めていくことが成功の鍵となります。特に訪問介護においては施設内サービスとは異なる独自の体制整備が求められることを認識しておく必要があるでしょう。
ここでは、受け入れ前に必ず整えておくべき体制と、実習生の定着を促進するための支援策について詳しく見ていきましょう。
受け入れ前の社内体制チェックポイント
技能実習生を訪問介護で受け入れる前に、いくつかの重要なチェックポイントを確認する必要があります(※7)。
監理団体との連携体制の構築
- JITCOなどの公的機関や民間の監理団体から自社に合った団体を選定
- 監理団体との緊密な関係構築
- 実習生の受け入れ手続きや必要書類の確認
- 定期的な情報共有の仕組みづくり
社内受け入れ体制の整備
- 技能実習指導員の選任と育成
- 訪問介護の経験が豊富で教育指導に適性のある職員を選定
- 指導員に必要な研修の受講手配
- 指導計画の作成方法の習得
- 評価システムの理解
- 生活指導員の選任
- 実習生の日常生活全般をサポートできる人材の選定
- 文化的な違いに理解のある人材の配置
- 生活上の相談に対応できる体制づくり
- 必要に応じた通訳サポートの手配
住居や生活環境の整備
- 清潔で安全な住環境の提供
- 通勤に便利な立地の確保
- 必要な生活用品の準備
- 医療機関へのアクセス確認
- 緊急時の対応方法の説明準備
- 日常的な買い物の便の確認
- 地域コミュニティへの紹介準備
訪問介護独自の準備
- 専用訪問ルートの設計
- 言語能力や技術レベルを考慮した訪問先の選定
- 比較的対応しやすい利用者からの担当設定
- 段階的な実習計画の立案
- 日本人スタッフの同行スケジュール調整
利用者への事前対応
- 外国人実習生受け入れについての説明資料作成
- 利用者への事前説明の実施
- 同意取得のプロセス確立
- 利用者からの質問対応準備
実習計画書の作成
- 移転すべき技能の習得スケジュールの明確化
- 在留期間に応じた段階的な目標設定
- 達成度を評価する仕組みの構築
- 監理団体との協議による計画書の精査
- 実習記録の管理方法の確立
これらのチェックポイントを事前に確認し必要な準備を整えることで、技能実習生の円滑な受け入れと効果的な実習の実施が可能になります。計画的かつ丁寧な準備が実習生と受け入れ側双方にとって実りある経験につながります。
詳細は「【徹底解説】介護分野における外国人材受け入れ時の課題ー企業のための完全ガイド」をご参照ください。
※7引用元:JITCO公益財団法人 国際人材協力機構 【技能実習 介護職種】訪問系サービスへの従事が認められました
外国人スタッフのキャリア形成と長期的な定着支援
技能実習生を単なる一時的な労働力として見るのではなく、キャリア形成の視点から長期的な育成・定着を図ることが重要です。技能実習制度は最長5年間という限られた期間ですが、その後の特定技能への移行や場合によっては正社員としての雇用継続も視野に入れた支援体制を構築することで、安定した人材確保につながります。
- 明確なキャリアパスの提示
- わかりやすい評価とフィードバック
- 心理的安全性の確保
- 将来のキャリア支援
日本語教育や資格取得支援制度の導入も視野に
技能実習生の成長と定着を促進するためには、継続的な日本語教育と資格取得支援は不可欠な要素です。
特に訪問介護の現場では高いコミュニケーション能力が求められるため、計画的かつ効果的な言語教育システムの構築が重要となります。初期の日本語研修だけでなく継続的な学習機会を提供することで、実習生の自信とスキル向上につながるでしょう。
- 介護現場特有の専門用語や表現に焦点を当てた日本語教育
実際の利用者とのやりとりを教材にしたり介護記録の書き方訓練など、実践的な学習を取り入れましょう。週1回の定期学習時間の確保やオンラインアプリ活用の費用負担も有効な支援策です。
- 資格取得は介護職員初任者研修や実務者研修の受講支援が基本
これらは技能実習生のスキルアップだけでなく、将来的なキャリアアップにも重要です。先進的な事業所では日本語能力試験の受験料負担や合格時の報奨金制度も導入しています。
大切なのは形だけでなく実効性のある支援です。「学習支援タイム」を業務シフトから外して確実に時間を確保するなど、実践的な仕組みづくりが成功の鍵となります。
訪問介護には技能実習生と特定技能、どちらを採用すべき?
訪問介護事業所が外国人材を受け入れる場合、技能実習制度と特定技能制度のどちらを選択すべきか多くの経営者が頭を悩ませる問題です。両制度には異なる特徴があり、事業所の目的や状況に応じた選択が求められます。
訪問介護事業所として選択する際にはコスト面や期間だけでなく、受け入れ目的や将来ビジョンを踏まえた総合的な判断が必要です。
ここでは、両制度の違いを具体的に解説し訪問介護事業所が選択する際のポイントを探ってみましょう。
訪問介護における実務・対応範囲の違い
技能実習生と特定技能の大きな違いの一つが訪問介護における実務範囲です。技能実習制度では実習開始後の一定期間は必ず施設内での研修が必要とされ、その後徐々に訪問介護の現場へ移行する形式が求められます。
一方、特定技能の場合は入国直後から訪問介護業務に従事することが可能です。
導入時期の違い
- 技能実習生:最初は施設内研修が必須、その後徐々に訪問介護へ移行
- 特定技能:入国直後から訪問介護業務に従事可能
業務内容の制限
- 技能実習生:実習計画に記載された業務に限定され、臨機応変な対応が難しい
- 特定技能:「介護」職種内であれば比較的柔軟に業務内容を変更可能
医療的ケアの対応
- 技能実習生:基本的に医療的ケア(喀痰吸引など)は不可
- 特定技能:適切な研修を受ければ医療的ケアが可能なケースもある
運転業務について
- 技能実習生:原則として業務上の自動車運転は認められない
- 特定技能:日本の運転免許を取得すれば業務上の運転が可能
業務の複雑性と自律性
- 訪問介護は利用者宅で一人で対応する能力が必要
- 日本語能力が高く設定されている特定技能の方が訪問介護に適している場合が多い
- 技能実習生を訪問介護で活用する場合は、より慎重で段階的な導入計画が必要
ただし、いずれの場合も日本語能力やスキルに応じた段階的な導入が現実的でしょう。
費用・期間・継続性から見る採用のポイント
技能実習制度と特定技能制度を費用面、期間、継続性の観点から比較すると事業所の状況によって最適な選択は異なります。
比較項目 |
技能実習制度 | 特定技能制度 |
---|---|---|
初期費用 |
比較的高い • 監理団体への監理費 • 入国前の日本語教育費用 • 住居確保費用 • 各種準備費用 |
比較的低い • 登録支援機関費用 • ただし人材紹介料が高額な場合あり |
継続的費用 |
• 監理費(月額) • 比較的低い給与水準 • 生活支援関連費用 |
• 技能実習生より高い給与水準 • 支援費用(登録支援機関利用の場合) |
滞在期間 | 最長5年間(1号1年、2号2年、3号2年) | 特定技能1号:最長5年間 特定技能2号:更新制で実質無期限※介護分野では現時点で2号への移行未認可 |
継続雇用 |
• 特定技能への移行が可能 • 「技能実習→特定技能」のキャリアパス設計可能 |
• 自由な転職が可能 • 他社への移動リスクあり |
費用面では、一般的に技能実習制度の方が初期コストが高い傾向にあります。監理団体への監理費、入国前の日本語教育費用、住居の確保など、様々な準備費用が発生します。特定技能の場合、登録支援機関を通じて受け入れるケースでも技能実習ほどの初期費用は発生しないケースが多いようです。
ただし、特定技能では人材紹介料や採用コストが高額になる場合もあります。また、すでに日本語能力を有する人材を求めるため、給与水準が技能実習生より高くなる傾向があります。長期的なコストパフォーマンスを考えると、一概にどちらが有利とは言えず、事業所の財務状況や人材育成方針に合わせた選択が必要です。
期間の観点では、技能実習は最長5年間、特定技能1号では最長5年間と同等ですが、特定技能2号への移行が認められれば更新制で実質無期限の滞在が可能になります。
継続性という点では、技能実習生は特定技能への移行が可能であるため、長期的な人材確保を見据えた「技能実習→特定技能」というキャリアパスの設計が可能です。最初は技能実習生として受け入れ、日本語や介護技術を習得した後、特定技能へ移行して継続雇用するという流れは多くの介護事業所で採用されている戦略です。
人材の安定確保という視点では、技能実習制度は原則3年(場合によっては5年)の期間が確定しているため、中期的な人員計画が立てやすいというメリットがあります。一方、特定技能では自由な転職が認められているため、より良い条件の職場への移動リスクがあります。人材の引き留め策としてキャリアアップ支援や生活環境の充実など、魅力的な職場づくりがより重要となるでしょう。
選択のポイント
事業所の状況によって最適な選択は異なります。長期的なコストパフォーマンス、財務状況、人材育成方針に合わせた選択が必要となるでしょう。技能実習から特定技能へのキャリアパスを設計する「ハイブリッド戦略」も効果的な選択肢となっています。
事業所が選ぶべき基準とは?目的に応じた使い分け
訪問介護事業所が技能実習生を受け入れるにあたり適切な基準設定は成功の鍵を握ります。明確な基準がなければ受け入れ後のミスマッチや教育体制の不備、さらには実習生の早期帰国といったリスクが高まるからです。
- 日本語能力に関する基準
訪問介護では利用者との直接的なコミュニケーションが必要不可欠であるため、少なくともN3レベル以上の日本語能力を持つ人材を選考することが望ましいでしょう。さらに、「聞く・話す」能力が特に重要であるため書類選考だけでなく、オンライン面接などを通じた実践的なコミュニケーション能力の確認が必要です。
- 技術・スキルに関する基準
送り出し国における介護関連の教育背景や資格の有無、基本的な介護技術の習得状況などを確認することが重要となります。実習生の中には母国で看護師や介護士としての経験を持つ人材も少なくありません。こうした経験は訪問介護における実践的なスキルの習得を促進する可能性があるため、選考時の重要な判断材料となります。
- 適応性や学習意欲に関する基準
訪問介護の現場では状況に応じた柔軟な対応が求められるため新しい環境や文化への適応能力、主体的に学ぶ姿勢、課題解決能力などを評価することが重要となります。これらの特性は短期的な技術指導だけでは培われないため、長期的な育成視点での選考が必要です。
- 実習生受け入れの目的による基準
将来的な介護福祉士資格取得を視野に入れた長期的な人材育成を目指す場合は、学習能力や向上心を重視した基準設定が効果的であるのに対し、短期的な人材不足解消を主目的とする場合は、即戦力となりうる技術レベルや経験を重視した基準となるでしょう。
このように、訪問介護事業所が技能実習生を選定する際には日本語能力、技術・スキル、適応性・学習意欲などの複合的な視点から基準を設定し、さらに自事業所の受け入れ目的に応じてそれらの重み付けを調整することが求められます。
【制度改正の背景と今後】訪問介護が向かう方向とは
日本の高齢化と労働人口減少により訪問介護分野での人材不足が深刻化しています。これに対し政府は、技能実習生の活用範囲を訪問介護にも拡大し新たな人材確保の選択肢を生み出しました。この取り組みは単なる人手不足解消だけでなく、多文化共生によるサービスの質向上や長期的キャリアパス構築も視野に入れています。
しかし、訪問介護特有の高度なコミュニケーション能力や判断力の必要性から受け入れ事業所には丁寧な育成・支援体制の整備が求められます。
今後は量的な人材確保だけでなく、多様性を活かしたサービス提供体制の構築と事業所と実習生双方にとって持続可能な関係づくりが重要です。