特定技能介護で求められる日本語レベルとスキル向上のための学習法

それぞれの国の文化や価値観を活かしながら、日本の介護現場に新しい視点をもたらしています。

※出典元：法務省「特定技能在留外国人数」

なぜ介護現場で外国人労働者が増えている？

介護現場で外国人労働者が増加している背景として、次のような要因が考えられます。

介護人員の不足が加速しているから

介護人材の不足は、年々深刻化の一途をたどっています。なぜなら、高齢化の進展による介護需要の増加に加え、生産年齢人口の減少という構造的な問題があるからです。厚生労働省の調査によれば、2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の介護職員が不足すると予測されています。特に、都市部での人材不足は顕著であり、介護施設の運営に支障をきたすケースも報告されています。

※出典元：厚生労働省「介護人材確保に向けた取組」

採用企業の求める求職者から応募が少ないから

日本人求職者からの介護職への応募が減少している理由として、労働条件や職場環境の課題が指摘されています。具体的に挙げられる課題は、以下のとおりです。

加えて、若年層の職業選択の多様化も、介護職への応募減少の一因です。一方で、外国人材は介護の仕事に対して高い意欲と使命感を持って取り組む傾向が見られます。

外国人労働者の国民性や個性がマッチしているから

多くの外国人介護人材、特にアジア圏からの人材は、高齢者に対する敬意や思いやりの心を持ち合わせています。例えば、フィリピンやベトナムなどでは、家族や高齢者を大切にする文化が根付いており、この価値観が日本の介護現場でも高評価です。また、明るく前向きな性格や、チームワークを重視する働き方は、職場の雰囲気改善にも寄与しています。

特定技能「介護」で求められる日本語レベルは？

特定技能「介護」における日本語能力要件は、利用者の安全と快適な介護サービスの提供を確保するために設定されています。介護現場では、日常的なコミュニケーションから専門的な記録作成まで、日本語力が求められる場面はさまざまです。具体的な要件は、日本語能力試験（JLPT）のレベルや介護日本語評価試験の結果に基づいて判断されます。

読み書きに求められる日本語レベル

読み書きの面では、JLPT N4以上の能力が求められます。基本的な漢字約300字程度の理解や、介護記録に必要な文章の読み書きができるレベルです。

介護の現場で働くとなると、読み書きにはこれらの能力が求められるでしょう。

コミュニケーションに求められる日本語レベル

介護現場でのコミュニケーションは、利用者との日常会話から緊急時の対応まで、幅広いレベルの日本語力が必要とされます。特定技能制度の介護分野では、日本語能力試験N4レベル以上の会話力が求められますが、介護現場でのコミュニケーションでは、それ以上の能力が必要となることも少なくありません。

特に、利用者の方言や高齢者特有の話し方への対応力が重要です。また、非言語コミュニケーションを含めた総合的なコミュニケーション能力も重視されています。

介護業務に求められる日本語レベル

介護業務における日本語能力は、単なる会話力だけでなく、専門用語の理解や正確な情報伝達能力も含まれます。なぜなら、体調の変化や急変時の報告では、症状や状態を正確に伝える必要があるためです。

たとえば、「少し具合が悪そう」といった曖昧な表現ではなく、「バイタルサインの数値」や「観察された具体的な症状」を適切な医療・介護用語を用いた報告が求められます。また、申し送りやカンファレンスでは、自身の観察結果や意見を論理的に説明する能力も必要です。

ビジネスに求められる日本語レベル

職場でのビジネスコミュニケーションにおいては、適切な敬語の使用やビジネスマナーに則った言葉遣いが求められます。これらは、上司や同僚と適切なコミュニケーションをとったり、チームワークを 円滑に進めたりするうえで不可欠なためです。

例えば、業務上の報告や相談を行う際には、5W1Hを明確にし、論理的な説明が求められます。加えて、施設の方針や規則を理解し、それに基づいた適切な表現で意思疎通を図る必要があるでしょう。

特定技能「介護」がよく困る介護現場シーン3選

特定技能「介護」の外国人材が現場で課題に直面するのは、次のような言語コミュニケーションを求められるときです。

どのような課題が生じるのかを理解して適切な支援を行い、円滑な業務遂行につなげましょう。

介護記録や報告書などの書類を記入するとき

介護記録の作成は、外国人介護職員が最も困難を感じる業務の一つです。特に、高度な語彙力を要する、利用者の細かな様子や変化を日本語で的確に表現する場面で苦労することが多いと報告されています。

具体的には、「むくみ」「しびれ」「ふらつき」といった症状を表す言葉や、「様子観察」「経過観察」といった専門用語の使い分けなどが困難に感じやすい傾向です。これらは、日本語母語話者でも注意が必要な表現が多く存在するため、外国人材にはより難易度が高いことを念頭に置いておきましょう。

利用者や家族とのコミュニケーションを行うとき

利用者や家族とのコミュニケーションは介護サービスの質を左右する重要な要素ですが、介護分野における外国人材が課題として感じやすい傾向があります。なぜなら、高齢者の方言や独特な言い回しの理解が難しいためです。特に、緊急時のコミュニケーションに支障をきたす可能性が少なくありません。

加えて、認知症利用者とのコミュニケーションでは、突発的な発言や感情の変化に対応する必要があり、高度なコミュニケーション能力が求められます。家族との対話においても、心情に配慮しながら正確な情報を伝える必要があり、時には専門的な説明も求められます。

仕事の報連相をするとき

介護現場では、報告・連絡・相談（報連相）が欠かせません。なぜなら、利用者の安全確保やチームケアの質を向上させるためにスタッフ間で連携が必要だからです。

しかし、外国人材は状況の優先順位を判断しながら簡潔かつ正確に情報伝達をしたり、複数の情報を論理的に整理して伝えることに困難を感じています。これらは、緊急性の高い報告や、申し送りの際に求められる能力です。

特に、夜勤帯での報告は、限られた時間内で重要事項を漏れなく伝えなければならないため、高度な日本語運用能力が必要となるでしょう。

特定技能「介護」への指導のコツ

介護分野における外国人材の育成には、言語面でのサポートと業務指導を効果的に組み合わせることが重要です。ここからは、現場での具体的な指導方法について解説します。

定期的に日本語能力をチェックする

外国人材の日本語能力を正確に把握することは、適切な指導を行ううえで不可欠です。定期的な評価のポイントとして、業務中の会話や記録物の作成状況を通じて実践的な日本語力を評価するといったことが重要となります。

特に注目すべきは、専門用語の理解度や、状況に応じた適切な表現の使用能力です。また、定期的な面談を通じて、外国人材が抱える業務上の言語的な課題や不安を把握し、必要なサポートを検討しましょう。

曖昧な指示は使わない

指示を出す際は、具体的かつ明確な表現を用いることが重要です。曖昧な指示をすると、外国人材を困惑させてしまう可能性があります。

「ちょっと」「適当に」などの曖昧な表現は避け、具体的な数値や方法を示しましょう。例えば、「ちょっと待って」ではなく「5分後に来てください」、「適当に拭いて」ではなく「消毒液で2回拭いてください」というように、明確な指示を心がけます。

加えて、複数の指示を同時に出す場合は、順序を明確にし、必要に応じてメモを活用すると有効です。

指示内容が理解できているか確認する

外国人材への指示後は、必ず指示内容が理解できているか確認を行うことが大切です。この確認プロセスは、業務の質を保証するだけでなく、職員の学習機会としても機能します。

具体的な確認方法として、指示内容を外国人材に復唱してもらうと効果的です。例えば、「〇〇さんの体位交換を2時間ごとに行う」という指示を出した場合は、「何時と何時に体位交換を行いますか？」と具体的な時間を質問し、回答してもらいます。

また、作業手順については、実際に見本を見せながら確認することで、より確実な理解を促すことができるでしょう。

叱責せずに間違いを指摘する

外国人職員の間違いに対しては、建設的なフィードバックを心がけましょう。特に日本語に関する誤りについては、正しい表現や方法を示し、その表現がなぜ適切なのかを説明するといったアプローチが効果的です。

例えば、介護記録での誤った表現があった場合、「この場合は〇〇という表現の方が適切です。なぜなら…」というように、理由とともに正しい使用例を示します。改善点を指摘する際は、職員の努力を認める言葉を添え、モチベーションの維持を図りましょう。

特定技能「介護」が取得できる試験レベルは？テキストや試験問題を紹介

特定技能「介護」の資格取得には、「技能評価試験」と「日本語能力評価」双方の合格が必要です。ここでは、具体的な試験内容と対策方法について解説します。

特定技能「介護」の試験と要件について

特定技能「介護」の試験は、以下の2つの要件を満たす必要があります。

介護の特定技能評価試験学習テキスト（改訂版）について

試験対策用のテキストは、実践的な介護知識と日本語学習を効果的に組み合わせた内容となっています。実際の介護現場で使用される用語や表現を重点的に扱ったり、場面別の会話例や記録の書き方を解説したりしているのが特徴です。

また、介護技術の手順説明には、図解やイラストを多用し、視覚的な理解を促進する工夫がなされています。

【過去問紹介】特定技能「介護」の具体的な試験問題は？

介護技能評価試験の過去問題を分析すると、実践的な介護知識と日本語運用能力の両方が問われる傾向が見られます。

実技試験で出題されるのは、利用者とのコミュニケーションを含む介護場面での適切な声掛けや介助方法などです。例えば、「右片麻痺のある利用者の着替えの介助」という課題では、利用者の状態に応じた声かけと、安全な介助技術の実践が求められます。

また、実技中の日本語コミュニケーションも評価対象となり、利用者への確認や同意を得る際の適切な表現力も重要です。

2025年最新｜特定技能「介護」の試験日程はいつ？

2025年度の特定技能「介護」試験は、日本の全国主要都市のほか、アジアの各国で連日実施されています。

実施日程は試験会場によって異なるため、厚生労働省が発表している試験日程をご確認ください。

 ※出典元：厚生労働省「介護分野における特定技能外国人の受入れについて」

特定技能「介護」の試験申込方法について

試験申込みの手続きは、以下の手順で行います。

特定技能「介護」を受験する場合は、申し込み前に必ず「プロメトリックID」というIDの取得が必要です。ID取得後に予約サイトにて以下の登録を行います。

個人で受験を申し込む場合は、これらの登録が完了したのち、クレジットカード情報を入力すると予約が完了します。予約完了後に表示される受験票は試験当日に持参が必要なため、必ず印刷しましょう。団体で申し込む場合は、受験料は「バウチャー」での支払いになるため、「バウチャーエクスプレス」の購入用アカウント作成が必要です。

なお、申し込み方法は変更になる場合もあるため、厚生労働省の情報を必ずご確認ください。

特定技能「介護」以外の雇用制度は？条件や取得方法について

介護分野における外国人材の受入れ制度は、特定技能以外にも複数存在します。それぞれの制度には特徴があり、目的や要件が異なります。

EPA介護福祉士候補者

経済連携協定（EPA）に基づく介護福祉士候補者の受入れ制度は、国同士の経済連携強化を目的とした制度です。以下の国から外国人介護福祉士候補者の受入れを行っています。

技能実習「介護」

技能実習制度における介護職種は、開発途上国への技能移転を目的として1993年に創設された制度です。技能実習生は、最長5年間の実習期間中に段階的に技能を習得していきます。

入国時には日本語能力試験のN4以上の日本語能力が求められ、実習開始後も定期的な日本語学習が必要です。実習期間中は、介護の基本技能から応用技能まで、体系的な学習プログラムに沿って技能を習得します。

なお、介護分野は実習修了後に特定技能への移行が可能です。

在留資格「介護」

在留資格「介護」は、日本の介護福祉士養成学校または介護施設等で就労・研修を行い、介護福祉士の国家資格を取得した外国人材を対象とした制度です。介護福祉士の資格を持つ外国人材は、この在留資格により日本での継続的な就労が可能となります。

在留期間の更新に制限はなく、高度な専門性を持つ人材として安定的な就労が保証されています。また、家族の帯同も認められており、長期的なキャリア形成が可能です。

特定技能「介護」の日本語能力を向上させる4つの勉強法

効果的な日本語学習には、体系的なアプローチと継続的な実践が重要です。ここでは、現場で実際に成果を上げている4つの学習方法を紹介します。

オンライン日本語教室に通わせる

オンライン日本語教室は、時間と場所の制約を受けにくい学習方法として注目されています。リアルタイムでの対話型レッスンにより、実践的なコミュニケーション能力を養えるのが特徴です。

また、オンライン日本語教室では、介護現場で必要な専門用語や表現に特化したカリキュラムも多く提供されています。学習進度に応じて個別指導を受けられる点も、能力向上に効率的です。

日本語学校を利用させる

日本語学校での学習は、体系的な日本語教育を受けられる利点があります。専門の教師による直接指導により、正確な発音や文法を習得できるためです。

また、日本語学校では他の学習者との交流を通じて、多様な場面での会話練習ができます。介護に特化したコースを設けている日本語学校も増えており、現場で即戦力となる日本語力を身につけられる場合もあるでしょう。

動画サービスやテキストブックで独学させる

独学による日本語学習は、個人のペースに合わせた柔軟な学習が可能です。効果的な独学の方法として、動画サービスやテキストブックでのアプローチが推奨されます。

動画教材は、実際の介護場面を視覚的に学べるのが利点です。例えば、介護の手順説明や利用者とのコミュニケーション場面を繰り返し視聴することで、実践的な日本語表現を習得できます。

さらに、テキストブックを併用することで、文法や語彙の体系的な学習も可能です。介護現場で頻出する専門用語や表現をまとめた教材を選択すると、効率的な学習が実現できるでしょう。

日本人職員から積極的に会話をする

職場での日本人職員との会話は、最も実践的な日本語学習の機会となります。効果的なコミュニケーションの方法として、業務中の会話で分からない言葉があれば、その場で確認する習慣を身につけることが大切です。

特に、介護記録の作成時や申し送り時には、正確な表現を学ぶ良い機会となります。休憩時間などを活用して、日常的な会話を楽しむことで、自然な日本語表現も身につけられるでしょう。

特定技能「介護」の日本語能力向上のおすすめサービス3選

効果的な日本語学習には、適切な学習ツールの選択が重要です。ここでは、特に介護現場で役立つ3つの学習サービスを紹介します。

市進日本語eラーニング

市進日本語eラーニングは、介護現場に特化した実践的な学習内容が特徴です。介護の仕事や現場に欠かせない単語を、イラストとともにわかりやすく説明されているため、理解しやすい仕組みとなっています。

講座各回の最後には練習問題があり、その回ごとの定着が確認可能です。

※出典元：市進グローバルサービス「介護の日本語」

MANABEL JAPANの日本語eラーニング講座

MANABEL JAPANは、現場のニーズに基づいた実践的な学習プログラムを提供しています。介護現場で実際に使用される表現や専門用語を場面別に学習できるコンテンツが充実しています。

加えて、発話練習では自分の声を録音できるため、自身の発音を確認可能です。さらに、オンラインでの個別指導を申し込むと、学習者の弱点に応じた支援も受けられます。 

※出典元：MANABEL JAPAN「シーンで学ぶ！実践介護の日本語会話トレーニング講座」

Gakken STEPにほんご

Gakken STEPにほんごは、段階的な学習プログラムと豊富な演習問題が特徴的な学習サービスです。JLPTの各レベルに対応した体系的なカリキュラムが用意されており、特定技能試験対策としても効果を見込めます。

特定技能外国人や技能実習生への日本語教育経験、海外現地での日本語教育経験がある講師陣が在籍しており、試験に向けた実践的な対策も可能です。

※出典元：学研「Gakken STEPにほんご」

日本語能力を常に把握・向上させて活躍できる介護人材へ

特定技能「介護」における日本語能力の向上は、キャリア発展に欠かせない要素です。効果的な能力向上のために、まずは自身の日本語レベルを客観的に把握することから始めましょう。定期的な自己評価や試験結果を通じて、強みと弱みを明確にします。特に、介護現場で必要とされる実践的なコミュニケーション能力については、日々の業務の中で意識的に向上を図ることが有効です。

加えて、学習計画の立案と実行も重要です。短期的な目標と長期的な目標を設定し、日常業務での会話力向上と並行して、介護記録作成能力の強化を図るなど、バランスの取れた学習を心がけましょう。

日本語能力の向上は、単なる業務上の必要性だけでなく、より充実した介護サービスの提供につながります。利用者との信頼関係構築や、チームケアの質の向上など、日本語能力の向上は多くの場面でプラスの効果をもたらします。

日本の介護現場でプロフェッショナルとして存分に活躍するためにも、確かな日本語能力を身につけましょう。