技能実習日誌は、実習生の技術向上だけでなく、受け入れ施設側の指導体制をよりよくしていくためにも欠かせないものです。 この記事では、実際に現場で実習生を指導してきた筆者が、実習生と指導者それぞれの視点から具体的な記載例を紹介しながら、日誌を活用するためのポイントをお伝えしていきます。
株式会社BKUは、ミャンマーの送出し機関と日本国内の登録支援機関を運営する人材紹介会社です。ミャンマー人材の文化・言語などの理解はもちろん、外国人材の採用から現場への定着、入国手続きまで一貫してサポートできることが当社の強みです。
- 「人手が足りない状況をどうにかしたい…」
- 「外国人材の採用は正直不安で…」
- 「本当に外国人材を採用したほうがいいのか…」
こうしたお悩みがございましたら、まずはご相談をお聞かせいただけませんか?サービスの売込みは一切行いませんので、お気軽にお問い合わせください。
![]() |
伊勢明敏 株式会社BKU代表取締役|日本で光学機器メーカーで研究職として4年間従事。その後ミャンマーに移住して、株式会社BKUを創業。9年間の在住中には、外国語大学と仏教大学にてミャンマーの言語・文化を専門的に学習。ミャンマーの言語・文化・制度すべてに精通した人材紹介から、累計400名以上の技能実習生・特定技能人材の送り出し実績を持つ。 |
介護業務における技能実習日誌の記載例
介護現場において技能実習日誌は、重要な役割を果たします。なぜなら、実習生がどんな業務に取り組み、どこまで理解できているかを共有する手がかりになるからです。とはいえ「毎日同じような内容になってしまう」「本人がうまく書けない」と感じる場面も多いのではないでしょうか。この章では、実際の介護業務をもとにした記載例を紹介します。実習生にも指導者にも役立つ“伝わる日誌”を作るためのヒントにしてみてください。
また、介護業務における具体的な指導内容への課題は、【外国人技能実習生の介護指導ガイド】効果的な指導法と現場で必要な体制づくりとはで解説していますので、こちらもあわせてご参照ください。
【実習生用】介護業務における技能実習日誌の記載例

技能実習日誌の記載において、実習生が最も注意するべき点は、日々の業務で学んだ内容を具体的に記録することです。ただ業務の内容を書いていくのではなく、なぜその介助が必要だったのか?どう工夫したのか?その結果どう変わったのか?を分かりやすく書くようにするといいでしょう。
また、自分の感じた疑問や難しかったことを書くことも覚えておいてください。なぜなら、思ったことを素直に記録することで、指導者は実習生のつまずきや成長の過程を理解しやすくなり、より的確な助言や支援を行えるようになるのです。
ここでは、介護現場で書かれている日誌の内容を、実際の記載例をもとに解説していきます。
実例①食事介助の記録例
食事介助における日誌の記載では、「利用者の状態の観察」と「食事介助の方法」をどちらも記録してください。 理由としては、「食べさせる」だけではなく、起きてもらうことから始まり、食事中のサポート、そして食後に安全に休んでもらうところまでを含めて食事介助というからです。
▼食事介助の記録例
「田中様(82歳女性)の昼食介助を担当しました。まず初めに食事の声掛けを行い、居室を出る前に義歯の装着状態と口腔内の乾燥具合をチェックしました。今日は普段より口腔内が乾燥していたため、食事の前にお茶を飲んでいただいて口を潤してから食事を開始しました。
一口目のお粥を提供する際に、いつもより飲み込みに時間がかかっているように感じたため、スプーンの量を普段の半分に減らしました。声かけは『ゆっくりで大丈夫ですよ』と優しく話しかけ、田中様のペースに合わせて進めました。途中で咳き込みが見られたため、一度食事を中断し、水分補給を促しました。
最終的に約8割の食事を摂取していただけましたが、普段より時間がかかったため、明日の食事では形態の見直しが必要かもしれません。食後は口腔内に残渣物がないことを確認し、居室で義歯の洗浄をして休んでいただきました」
このように、食事介助の様子だけではなく、”食事前”と”食事後”の状態まで記載をすることで、利用者の観察についても学ぶことが可能になります。 そして、観察する力が身につくと、食事のペースや好き嫌いなど利用者ごとの違いにも気づけるようになっていくでしょう。
実例②排泄介助の記録例
排泄介助の記録では、利用者の尊厳や気持ちに配慮しながら、必要な情報を正しく書き残しましょう。なぜなら、排泄の様子はその人の体調変化や健康状態を知る大切な手がかりで、その記録が今後の介助方法を決めるうえで重要になっていくからです。
また、排泄介助の実践については【外国人技能実習生の介護指導ガイド】効果的な指導法と現場で必要な体制づくりとはで触れているのでご参照ください。
▼排泄介助に関する例文
「山田様(76歳男性)のトイレ介助を実施しました。14時30分に『トイレに行きたい』との訴えがあり、車椅子でトイレまで移動しました。移動中は転倒リスクを考慮し、ブレーキの確認と足元の安全確保を徹底しました。
便座への移乗時は、山田様の右側から支持し、左手でしっかりと手すりを握っていただきました。排尿は問題なく行えましたが、立ち上がりの際に『少しふらつく』とのお話があったため、しっかりと支えながらゆっくりと立ち上がっていただきました。
手洗いの際は、石鹸の泡立てから水の温度調整まで、山田様が自分でできる部分は見守り、必要な部分のみ介助しました。『自分でできることは自分で』という山田様の希望を尊重し、自立支援を心がけました。今後もこの方針で介助を継続していきたいと思います」
排泄介助で大切なことは、利用者が自分のペースで排泄できるようにサポートすることです。 そのため、利用者の残存能力や介助時の希望などを個別に記録しておけば、次回ケアするときにも利用者のペースを乱さずに済むでしょう。よって、記載例のように排泄介助の記入をすると、指導者側も「利用者の自立を支援するためにどこに注意を向けるべきか」具体的に判断できるようになります。
1.残存能力や希望を記録に残すことで、その人に合わせた介助が可能になる
2.具体的に日誌を書くことで、指導者は「どこに注意が必要か」を把握できる
3.情報共有が進むことで、継続的な指導がしやすい
実例③体調変化の観察記録の書き方
体調の変化を観察して記録するためには、主観的な判断ではなく、客観的な事実に基づいて記載するよう意識してください。なぜなら、介護職員や他の部署と情報を共有するときに、正確な情報が利用者の命の安全と適切なケアにそのままつながるからです。
▼体調変化の観察記録に関する記録の例
「佐藤様(84歳女性)の午後の様子について記録します。15時頃から『頭が重い』との訴えがあり、普段よりも表情が硬く見えました。バイタルサインを測定したところ、血圧が158/92mmHg(普段は130/80mmHg程度)、脈拍が92回/分と、平常時より高い値を示していました。体温は36.8度で発熱は認められませんでした。
食欲について確認すると『あまり食べたくない』とのことでしたが、水分摂取は促すことができました。安静にしていただくため、居室で横になっていただき、30分後に再度様子を確認しました。その時点では『少し楽になった』との発言があり、表情も穏やかになっていました。
念のため看護師に報告し、夕方の薬の服用時間や食事について相談しました。このような症状は初めて見られたため、明日の朝の状態も注意深く観察する必要があります」
このように、体調について記載をするうえで大切なのは、正確な情報です。そのため、バイタルサインは正しい値を記録し、他部署とのやり取りは詳細を記入しましょう。また、利用者は高齢で容体が急変する可能性もあるので、不調の訴えがあったあとの様子も必ず記録に残しておくことを意識してみてください。
そして、体調の変化など観察面の記録は、介助とは違い、自分が感じたことではなく利用者の状態を第三者に伝えるようなイメージで、事実のみ記載しましょう。これにより、客観的な記録になり、指導者にも日誌の内容が伝わりやすくなります。さらに、日誌を通じて情報を共有すると、利用者のアセスメントが充実したものになるため、実習生の学びだけでなく、チーム全体のケアの質向上にもつながる利点があります。
1.バイタルサインは正確な値を書き残す
2.他職員・他部署とのやり取りは詳細を記入する
3.第三者に伝えるイメージで、事実のみを書く
4.情報共有の質が高まることで実習生の学びだけでなく、チーム全体のケアの質が向上される
【指導者用】介護業務における技能実習日誌の書き方

指導者側の日誌の記録は、実習生の成長過程を客観的に評価し、今後の指導方針を明確にすることが重要です。 単に作業の可否を判断するのではなく、実習生がなぜそのケアをしたのか、どのような思考プロセスを経ているのかを理解し、それに基づいた指導内容を意識することで、次回の指導へつながる日誌へと変わります。
では、実際の指導場面における記載例を通じて、効果的な記録方法について詳しく解説していきます。
実例①介助に関する具体的な指導内容の記載の例
▼具体的な指導内容の記載例(入浴介助)
「リン実習生(入国3ヶ月)の入浴介助指導を実施しました。今回は特に洗髪技術に焦点を当てて指導しました。最初に私が実演を行い、『水の温度は38度程度』『シャンプーの量は500円玉大』『泡立ては指の腹で優しく』という3つのポイントを日本語と英語で説明しました。
実習生は非常に熱心に観察し、メモを取っていました。実際にリン実習生に実施してもらったところ、水の温度調整は適切にできましたが、シャンプーの量が少し多めでした。『少し多いですね』と伝えると、すぐに理解し、次回は適量を使用できていました。洗髪の手つきは優しく、利用者の表情を確認しながら行えていたことは評価できます。
今後の課題として、すすぎの際の耳への水の流入防止について、次回詳しく指導予定です」
介助技術の指導記録では、実習生の技能レベルを正確に把握して、個人に沿った指導計画を立てましょう。なぜなら、一度に多くの技術を教えようとすると、実習生が混乱してしまう可能性があるからです。
そしてもうひとつ、次回の指導を他の職員が担当する可能性を想定して、「今回はどのような指導を行ったのか」「次に何を教えるべきか」を具体的に記録します。このように指導の流れを明文化しておくことで、職員間の引き継ぎがスムーズになり、指導内容がバラバラになってしまうのを防げるようになります。
実例②目標設定と助言の記録例
目標設定に関する記録では、実習生の現在のレベルと、これから到達するべき目標を明確に結びつけておくようにしましょう。 なぜなら、目標があいまいなままでは、実習生自身が「何を目指せばよいのか」が分からなくなり、途中で意欲を失ったり、自分の成長を実感できなくなってしまうからです。
そして、実習生の現在地(今できていること)と理想像(これから目指す姿)を記録に残すことで、指導者がそのギャップを正確に把握し、「次はこれに進み、覚えられたらこっちの指導を始めよう」と、段階的に計画を立てることができ、指導がスムーズになります。
▼目標設定と助言の記載例
「チェン実習生(入国6ヶ月)との月次面談を実施し、今月の目標設定を行いました。前月の目標であった『移乗介助の基本動作習得』については、ベッドから車椅子への移乗は安全に実施できるようになりました。
しかし、車椅子からトイレへの移乗時に、利用者の足の位置確認が不十分な場面が見られました。チェン実習生自身も『まだ不安がある』と話しており、自己評価能力は適切です。今月の目標として『移乗介助における安全確認の徹底』を設定しました。具体的には、移乗前の3つのチェックポイント(足の位置、ブレーキの確認、利用者の体調確認)を毎回実施することとしました。
また、チェン実習生から『日本語の敬語が難しい』という相談があったため、介護現場でよく使用する敬語表現を週に3つずつ覚えることも副目標として追加しました。来月の面談では、これらの目標達成状況を確認し、次のステップについて話し合う予定です」
このように、目標設定とどんな助言をしたのかを、第三者に伝えるように意識して記載してみてください。そしてもう一点、記載例にもあるように、助言を行う際は、本人の悩みを聞き取り、その詳細を記録に残してあげるようにしましょう。その理由としては、実習生は日本語の表現や日本人との関わり方、文化的な違いの理解など、介護技術以外にも学ぶべきことが多いため、実習のための環境づくりにも配慮が必要だからです。 ※実習生の受け入れの課題に関して、特定技能性の現状と課題:受け入れ企業が直面する問題点と対応策で詳しく書かれています。
例えば、「食事介助を習得する」「オムツ交換ができるようになる」といった具体的な技術目標に加え、「職員にあいさつをする習慣を身につける」「利用者に対して丁寧な言葉づかいを意識する」といった生活・対人関係での目標も一緒に考えてみるのはどうでしょうか。
日誌を単なる記録で終わらせないために、目標設定だけではなく助言も取り入れ「安心して介護を学べる」環境作りにも目を向けてみてください。
【10年の現場経験で得た】技能実習日誌の書き方のコツ

実際に介護現場で長く指導の経験をしてきて、技能実習日誌を効果的に活用するためには、いくつかの重要なポイントがあることが見えてきました。
私は実習生の指導を進めていくうえでは、視覚的・対話的などの、工夫したアプローチが必要だと感じました。どうしても、記録を文章で残すことにこだわってしまいがちですが、実習生の理解を深めるためには、日誌の本質はそこではなく指導者の思いが伝わることだと思っています。
これから実習生指導の実体験をもとに、多角的なアプローチを実践するためのコツについて、具体例を交えながら詳しく解説していきます。
ポイント①伝わる記録には絵も有効
介護技術を指導するときに、文字だけでは伝わりにくいと感じたことはありませんか? 技能実習生の日本語レベルは、話せる・読み書きできるなどの習熟度で個人間に差があります。 慣れない中では、うまく話が伝わらないことも考慮しておきましょう。 また、実習生の日本語学習については、特定技能介護で求められる日本語レベルとスキル向上のための学習法という記事で詳しく解説しています。
介護現場での例をひとつあげると、移乗介助の手順を説明する際に「利用者の脇の下に手を入れてください」と口頭で伝えても、実習生にとっては「どの位置から?どの角度で?」とイメージがしづらく、伝えただけではすんなりと介助に入れません。 こうしたときに、メモ用紙に人物の絵を描き、手の位置を矢印で示すだけで、一目で理解してもらえます。 また、「足の位置はここ」「重心はこちら」といったポイントなどを、図にして説明すれば、安全な介助方法を簡単に伝えることが可能です。実際に、実習生からは絵や図のほうがイメージがしやすいという話もありました。
さらに、実習生自身に“描いてもらう”ことも効果的です。ある実習生は、入浴介助の手順を絵日記のように描いて提出してくれました。見てみると、介助の手順として更衣から始まり、洗髪・洗身、浴槽への入り方などが絵を交えて記載されており、理解していることが視覚で伝わるものになっていたのです。
1.言葉では伝わりにくい動きや位置関係を視覚的に説明できる
2.実習生の理解度を確認しやすくなる
3.多国籍の実習生にも伝わりやすい(絵は万国共通の言語)
4.実習生自身が描くことで、頭に入り記憶に残りやすい
ポイント②記録で実習生の理解度を確認できる
実習日誌は、単なる提出物ではなく、実習生の理解度を測る重要なツールです。書かれている内容を読み、どこまで理解できているかを見極めることで、適切な指導方針を立てるヒントになってくれます。ただし、日誌の内容によっては、実習生がどう感じて、どう考えたかの“背景”までは読み取れないことがある点に注意してください。
例えば、記録に「利用者が転倒しそうになったので支えました」とだけ書かれていた場合、一見すると適切に対応できたように感じます。しかし実習生本人に「なぜ転倒しそうになったのか」「どのような兆候があったのか」「今後はどう予防するのか」といった質問をしてみると、そこまでは考えられていないというケースが多くみられました。 このままでは、利用者の転倒リスクに対しての対策ができません。
一方で「山田様が立ち上がる際に右足に力が入りにくそうな様子が見られたため、右側からしっかりと支持し、ゆっくりと立ち上がっていただきました」という記録であればどうでしょうか。実習生は利用者が転倒しそうだった理由を理解しており、どう対応したのかが伝わってきます。 また、この記載内容をもとに、「右側に杖を持ってもらおう」「ベッドのサイドレールに介助バーを入れて立ち上がりやすいようにしよう」など、具体的に対策を立てることもできます。
このように、日誌の内容を具体的に分析することで、実習生がどれくらい理解できているのかを段階的に見極めることができ、実習生一人ひとりに合わせて個別で指導していくことが可能になっていきます。
1.実習生の判断の根拠が書かれているか
2.状況の観察が具体的に書かれているか
3.「なぜそうしたのか」が伝わる内容になっているか
ポイント③目標設定は一緒に考える
実習生の成長を継続的に支えるためには、指導者が一方的に目標を決めるのではなく、実習生本人と一緒に目標を立てるようにしてください。 なぜなら、自分で目標を立てるほうがイメージがしやすく、自らの課題に近いものになるからです。また、与えられた目標よりも、自身で決めたほうが意欲や責任感も高まります。
毎月の面談では、まずはじめに「今月はどのようなことを学びたいですか」「どの技術を身につけたいですか」と問いかけることから始めましょう。 その理由として、自分自身で選んでもらうことにより、不安に思っていることや自信がない介助などが明確になるからです。
例えば「車椅子の操作が上手くなりたい」と答えた場合、「どんな場面で難しいと感じているのか」「どこまでできるようになりたいのか」を話し合います。 そのうえで、「段差のある場所での車椅子の操作が安全に行えるようになる」といった具体的な目標を一緒に設定するようにしましょう。
さらに、「その目標を達成するためにどんな練習が必要か」「どうやって上達を確認するか」まで発展していくことで、実習生の主体性を引き出すことも可能です。「一緒に考えた目標」に取り組むことで、実習生は自分の成長を実感しやすくなり、次の実習にも前向きな姿勢で取り組みやすくなります。
【介護現場であった】技能実習生指導の困りごと&対処法

介護の現場で技能実習生の指導をしていると、日々の業務に追われている中で、指導内容を見直したり、目標の設定を一緒にすることは、時間を十分に確保できず、現実的に難しいという声をよく耳にします。しかし、こうした困りごとも、少しの工夫と具体的な対処法を考え、忙しいときでも実習生に成長してもらうためのチャンスにしていきましょう。
この記事では、現場での指導経験の中で実際に使ったものを、具体的に解説していきます。 ぜひ、現場での実習生指導で実践してみてください。
目標や記録のネタ切れ時は、アセスメントを活用する
「日誌の内容が毎回同じになってしまう」「日誌に書くネタがない」 これは、介護現場では”あるある”な悩みではないでしょうか。どうしても、介助を覚える際は反復練習になり、実習内容が同じになってしまうため、日々の業務がルーティン化してしまうのはごく自然なことです。こうした状況では、アセスメントシートを活用することをおすすめします。 アセスメントは身体介助を伴わないため、実習生が一人でも取り組めるという利点があります。
具体的な方法としては、毎日同じ指導をしているなかで「今日は一名、〇〇さんのアセスメントを取ってみてください」と、まず実習生にお願いしてみましょう。そして、利用者とコミュニケーションをとってもらい、会話の中で出た【日常生活動作(ADL)】や【身体の状況】、【認知面の詳細など】を記録に残してもらいます。慣れてきたら出身地や趣味、どんな仕事をしてきたかなど、内容を広げていけるようになるとなおいいです。アセスメントを取るためには、利用者とのコミュニケーション能力が必要になるため、実習生にとっても関わり方の勉強になります。
1.利用者の日常生活動作(ADL)
2.身体状態(麻痺・拘縮・疼痛など)
3.認知症の有無や症状の傾向
4.コミュニケーションの特徴や反応の違い
※1参照元:厚生労働省「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の掲示について」の一部改正等についてP.47
忙しい現場でも、記録が成長を促してくれる
多忙な介護現場において指導時間の確保は課題となりますが、日誌の記録内容を効果的に活用することができれば、限られた時間の中でも実習生の成長を促していくことができます。その理由は、「記録を通して振り返りをする」というクセを付けることで、実習生は自分を分析するようになり、自主的に学んでいけるようになるからです。
たとえば「今日の業務で気づいたことを3つ書いてみてください」「困ったことがあれば、その時の状況と自分なりの対応を記録してください」と実習生に依頼してみてください。 そうすることで、実習生は自身の経験を振り返って、客観的に考えを整理できます。そして、指導者はその記録をもとに「この判断はこうするとよかった」「ここの考え方はよかった」と実習生にフィードバックができるようになります。
実習生が自分で考える力を身につければ、お互いに時間をムダにすることがなくなり、実習生は感じたことを伝え、指導者はそれに回答するというシンプルな構図にすることができます。大切なのは悩んでいることに指導者が的確に答えることです。 それこそが、実習生本人の成長にとって一番の近道になると言えるでしょう。
介護技能実習日誌の保管と提出ルール

実習の担当者は、技能実習に関して、主務省令で定める帳簿書類を作成し、技能実習を行わせる事業所に備えておかなければならないとされています(※2)。
外国人技能実習制度では、実習生の技能習得状況を正しく把握して、必要な時に関係機関への報告をスムーズに行う必要があります。 そして実習日誌を正しく管理するためには、指導を担当している現場職員だけでなく、施設全体が協力して責任を果たす必要があるといえるでしょう。
本記事では、現場で実際に取り入れられている管理の工夫やアイデアを交えながら、実践的な記録管理の方法について詳しくご紹介します。
※2出典元:厚生労働省『介護職種技能実習指導員講習テキスト』P.80
提出は月末締めがおすすめ!介護現場で忘れないための工夫も紹介
技能実習日誌の提出時期に法的な決まりはありませんが、多くの介護施設では「月末締め」での提出・管理が一般的です。そのため、覚えやすいように日付を施設内で統一しておくといいでしょう。 そして、実習生から日誌を回収して適切に管理するためには、個人任せではなく、ルールを決めて組織内で管理することを忘れないでください。 なぜなら、現場実習をしていると、介護業務の方に意識が割かれ、提出忘れや遅れてしまうリスクがあるからです。
そのため、あらかじめ提出時期を「3段階」に分けて運用する方法がおすすめなので参考にしてみてください。
・月初(1日頃): 実習生から前月分の日誌を提出してもらう
・中旬(15日頃): 指導者と実習生が日誌を見ながら面談・フィードバック
・月末(25日~末日): 内容確認・不備修正後、監理団体へ提出手続き
このようにスケジュールを決めておくことで、指導者や実習生が習慣として毎月の提出時期を意識できるようになります。一方で介護現場では、職員室にカレンダーを置き、そこに提出のスケジュールを書いておくことで、職員全員が確認できるので、提出忘れの防止に効果的なので試してみてください。そして、実習生に対しても「○日までに提出をお願いします」と具体的な期日を伝えることで、時間管理の習慣づけにもつながります。 こうした小さな工夫を積み重ねることが、管理を徹底するうえで重要です。
技能実習日誌の保管期間は、実習終了後1年+実習期間で計4年必要
技能実習日誌の保管期間は、法律により「実習終了後1年間」と定められています。 つまり、実習期間(通常3年)を含めると、最低4年間の保管が必要になるのを覚えておきましょう(※3)。よって、この期間中は監査で求められた場合には、いつでも提出できる状態でなければいけません。なぜなら、技能実習日誌は実習生の成長や指導内容を記録した、制度上の“証拠書類”にあたるからです。
管理方法としては、年度別・実習生別にファイリングして整理しておくことをおすすめします。ファイルの表紙に実習生の氏名・入国年月日・保管期限を明記したラベルを貼ることで、誰の記録かが一目でわかり、取り出しもスムーズに行えるようになります。 さらに、書類を電子データ化して保管しておくことで、紙が劣化してしまう・紛失してしまうなどのリスクを避けられます。特に、情報量が多くなってくる複数年分の管理には効果的です。
そして、廃棄方法についてですが、実習終了から1年以上経過していることを必ず確認してください。あらかじめ「保管期限管理表」を作成しておくと、前年度分を点検するときに見やすいです。私のいた施設では、保管期限の2年前から「廃棄予定リスト」を作成して整理することで、日常業務を圧迫せずに管理していました。このように、計画的に書類と管理できると、法令の遵守と監査対応、そして現場の業務効率向上を同時に実現することが可能になります。
※3出典元:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)第22条五の2
提出は事務局へ、介護現場での実際の流れを解説
技能実習日誌は、監理団体の事務局に対して提出する必要があります。 制度上、帳簿類として保管・確認が求められるため、提出漏れのないよう注意しましょう。ただし、提出の具体的な手順は施設や監理団体ごとに異なり、また、いつ提示を求められるかも不確定です。そのため、あらかじめ監理団体に確認を取り、運用にあわせてスムーズな提出準備をしておきましょう。
たとえば、私がいた施設では以下のような流れで管理していました。
2.事務担当が提出用書類を作成し、監理団体に送付(郵送・持参・電子)
3.出席状況や健康状態などの補足情報も併せて報告
4.チェックリストを使って「回収」「確認」「提出」「受領」を管理
【現場での指導経験者が答える】技能実習日誌の記録に関するよくある質問

技能実習日誌の記録に関して、実習生や指導者から様々な質問が寄せられています。特に、介護分野の技能実習制度は比較的新しいため、似たような制度が多く、他との違いも分かりづらいといえます。しかし、制度の理解は、記録の管理や指導を効果的に行うため間違いなく重要です。
こちらの記事では、長年の現場経験を通して学んだ知識と実践の例をもとに、特に質問が多かった疑問点にお答えします。
福祉と介護の記録の違いは?
福祉分野と介護分野における技能実習の記録内容には明確な違いがありますが、ワードが似ているため、混乱してしまう方も多いでしょう。これは、両分野が密接に関係している一方で、技能実習制度上の位置づけや記録の重点が異なっていることが原因として考えられます。
それぞれの違いについてですが、介護分野の技能実習は、介護技術や認知症ケアなどの直接的な介護サービスの習得が目的です。そのため日誌では、「移乗介助の安全性」「食事介助中の嚥下状態の観察」「入浴時の皮膚状態の確認」など、具体的な介護スキルの習得状況を詳細に記録するようにしましょう。
一方で、福祉分野の技能実習は、相談援助技術や地域支援活動、制度の理解といった、福祉サービス全般に関する知識と実践の習得が目的になっています。 よって、記録の中心も、「利用者との面談」「地域イベントへの参加」「制度説明の理解度」など、対人援助や制度運用に関する内容です。
▼介護分野の記録例
本日、山田様の移乗介助を行い、右側から支持する方法を習得しました。
▼福祉分野の記録例
利用者の家族から相談を受け、介護保険に関する情報を紹介しました。
このように、介護分野は直接の介護サービス、福祉分野は制度などの包括的なサービスになっています。 そのため、目的と記録の視点が異なることを理解したうえで、分野ごとに適切な記録を行うことを意識するといいでしょう。
技能実習と特定技能の違いとは?
主な違いとしては、技能実習は「教育が目的」、特定技能は「即戦力の確保」です。 なぜなら、実習では毎日の成長記録が重視されますが、特定技能では業務実績の報告が中心となっているからです。 そのため、日誌の内容や評価方法など、記録の在り方にも明確な違いがあります。
詳しい内容に関しては、解説記事の介護分野での特定技能と技能実習の違いは?制度から選定方法までをご参照ください。
【形だけの記録から脱却】伝わる介護技能実習日誌が実習を変える
技能実習日誌を、実習生が成長するためのツールとして活用することができれば、実習内容はより良いものになります。しかし、多くの現場では必要なことのみ記録する義務的な作業になってしまっているのが現状です。その結果、記録は後回しになってしまい、実習生と指導者がお互いの情報交換をする場として活用できていないなどの問題があります。
実際に、日誌を活用し指導をしてみた経験から、記録の質を高めれば、実習生は記録を振り返って自己分析できるようになり、指導者は計画を立てながら効果的な指導を行えるため、実習が充実して成長につながるということを実感しました。この成長というのは、実習生だけのことではありません。携わった指導担当者や組織全体にとっても学びの機会になり、大きな経験となってくれます。
技能実習日誌がもたらしてくれる効果として、実習生・指導者・施設の成長をあげてきましたが、組織全体の質が向上することで、利用者にも良いサービスを提供できるようになっていきます。 よって、実習の活用とは、実習生・職員・利用者のすべてにとって価値のある環境を作れることが理想の形といえるでしょう。記録を「負担」だと考えるのではなく、活用して技能実習の「価値あるコミュニケーション」として捉える視点こそが、実習成功のカギとなります。