少子高齢化が進む日本において、介護人材不足は深刻です。その解決策の一つとして、外国人技能実習制度を活用した介護人材の受け入れに注目が集まっています。しかし、制度の運用には様々な問題点が指摘されており、安易な受け入れは、技能実習生と受け入れ施設にとって不幸な結果を招きかねません。
本記事では、介護技能実習生の受け入れを検討している介護施設が、事前に知っておくべき7つの問題点を解説し、より良い受け入れの対策が知れます。
介護技能実習生の受入期間と人数推移:現状から見える課題
開発途上国への技術移転を目的として始まった技能実習制度。しかし、低賃金や長時間労働といった条件下で、人手不足を補うための労働力として扱われる側面が強くなっています。この状況を改善するため、下記の取り組みを行います。
令和6年6月21日、「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」が公布されました。それにより、技能移転による国際貢献を目的とする技能実習制度を抜本的に見直し、我が国の人手不足分野における人材の育成・確保を目的とする育成就労制度が創設されます(育成就労制度は令和6年6月21日から起算して3年以内の政令で定める日に施行されます。)
※1引用元:厚生労働省「育成就労制度の概要」
新制度への移行は時間を要するため、現状の技能実習制度についても理解しておくことが重要です。ここでは、現状の技能実習制度、介護分野の技能実習生の必要事項、受け入れ人数の推移や期間について具体的に解説していきます。
現状の技能実習制度と介護技能実習生の必要事項
技能実習制度の目的は、開発途上国への技能移転であり、単なる労働力として扱うことは許されません。そのため、介護実習期間中は、技能実習計画に基づき知識や技術の習得を目指します。
介護における技能実習の内容は、入浴介助、食事介助、排泄介助などの基本的な介護業務から、レクリエーションの実施、記録の作成など多岐にわたります。技能実習生が適切な環境で技能を習得できるよう、実習計画の作成、実習指導員の配置、生活指導員の配置などが必須です。
介護の現場では、利用者との円滑なコミュニケーションが不可欠であるため、技能実習生には一定レベルの日本語能力が求められます。
入国時には基本的な日本語を理解することができる「N4」、1年後の技能評価試験合格時には日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる「N3」が目安とされています。多くの実習生は、入国前に日本語を学習しますが、入国後も継続的な学習支援が必要です。
介護技能実習生の期間は最長5年
介護技能実習生が日本で活動できる在留期間は、技能実習計画に基づいて最長5年間と定められています。
まず「技能実習1号」として1年間活動し、その後「技能実習2号」として2年間、さらに「技能実習3号」として2年間、段階的にステップアップします。これら3つの段階を順調に進めることで、最長5年間にわたり、日本で介護の技能を学び、実務経験を積むことができます。
しかし、技能実習生がただ期間を過ごせば次のステージへ進めるわけではありません。技能実習1号から2号へ進む際、2号から3号へと進むときには、それぞれ技能評価試験に合格する必要があります。合格しなければ次の段階へ移行できません。このように、介護技能実習制度は最長5年の在留期間を通じて、試験に合格することで成長していく仕組みです。
介護技能実習生の人数推移:毎年8000人の増加
技能実習生の受け入れは増加傾向にあります。厚生労働省のデータによると、2012年には13.4万人だった技能実習生の数は、2022年には34.3万人に達し、この10年間で約2.5倍に増加しています(※2)。

※2引用元:厚生労働省「在留資格別にみた外国人労働者数の推移」
介護分野の技能実習生受け入れ人数の正確な推移は公表されていませんが、ひとつの指標となるのが「介護職種の技能実習計画の新規認定件数」です(※3)。
これは、国が新たに認定した介護技能実習計画の件数で、年間の受け入れ人数を推定する目安となります。この数値は近年、おおむね年間8,000件前後で推移しています。
この数字から、毎年8,000人ほどの外国人技能実習生が、新たに日本の介護現場で働き始めていることがわかります。
※3引用元:厚生労働省「外国人労働者の受入れの政府方針等について」
技能実習生の失踪者9,753人!介護施設が知っておくべき7つの問題
深刻な人手不足に悩む日本の介護現場。その担い手として期待される外国人技能実習生ですが、受け入れには様々な課題が潜んでいます。
国際貢献という理念のもと、実習生の育成に真摯に取り組む施設がある一方で、人手不足解消の手段として、劣悪な労働環境下に置いてしまうケースも後を絶ちません。
言葉や文化の壁によるコミュニケーション不足、人権侵害、低賃金、長時間労働など、問題は多岐にわたります。こうした状況から、令和5年には9,753人もの技能実習生が失踪する深刻な事態となりました(※4)。
ここでは、介護施設が技能実習生を受け入れる際に直面する7つの問題点を詳しく解説します。
※4引用元:法務省「技能実習生の失踪者の状況」
①介護現場も例外ではない技能実習生の長時間労働問題
何度も繰り返しますが、技能実習制度は、開発途上国への技能移転を目的とした「技能の習得を目的とした制度」であり、人手不足を解消するための手段ではありません。現実には、労働力不足を補う手段として利用され、技能実習生が長時間労働を強いられるケースが少なくありません。
厚生労働省が令和5年に行った調査では、鉄鋼業の現場で、違法な長時間労働が発覚しました。外国人技能実習機構から「労働基準法違反の疑いがある」との情報を受け、労働基準監督署が立ち入り調査を実施。その結果、企業が労働組合と締結していた「36協定(サブロク協定)」の上限を大幅に超える残業をさせていました(※5)。
※5引用元:厚生労働省「技能実習生の実習実施者に対する監督指導」
36協定(サブロク協定)とは、会社が従業員に時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合に、あらかじめ労働組合と結んでおく約束のことです。36協定では、月あたりの残業時間の上限などを定めます。
今回のケースでは、月80時間という残業時間の上限が定められていたにもかかわらず、技能実習生3名が最大で月90時間30分、日本人従業員1名は月114時間もの残業をしていたことが確認されました。
これは労働基準法に違反する行為であり、労働者の健康や安全を脅かす重大な問題です。慢性的な人手不足に悩む介護業界においても、決して他人事ではありません。
技能実習生は、業務上やむを得ない事情により時間外労働が必要な場合は、以下の条件をすべて満たす必要があります(※6)。
・労働基準法などの労働関係法令を遵守していること
・時間外労働が、技能等の修得活動の一環として行われること
・技能実習生に対する技能等の修得に係る指導体制が構築されていること
これらの条件を満たした上で、時間外労働を行わせる必要があります。技能実習生が安心して働ける体制を整えることは、受け入れ企業の義務です。
※6引用元:出入国在留管理庁「技能実習生の時間外労働等の取扱い」
②2700万円未払い! 技能実習生の残業代未払い問題
技能実習制度を利用している事業者の中には、残業代を支払わない違法行為を行う悪質なケースも見られます。
実際、2023年に愛媛県の縫製会社がベトナム人技能実習生11人に対し、合計2700万円もの残業代を支払っていなかったことが判明しました。さらに、この会社は実習内容も計画どおりに実施しておらず、外国人技能実習機構へ虚偽報告まで行っていたとのことです(※7)。
技能実習生の切実な声は、この問題の深刻さを示しています。記者会見で、あるベトナム人技能実習生は「今お金がありません。子どもの勉強代も払えません」と苦しい現状を訴えました。
残業代未払いなどの違法行為を行った企業は、行政処分や社会的信用を失うなど重大なリスクを負うため十分な注意が必要です。
※7引用元:TBS「ニュースサイト」
③技能実習生を襲う暴力の問題
外国人技能実習生は、言葉や文化が異なるため、ハラスメントの標的になりやすいという厳しい現実があります。
毎日新聞が報じた岡山市の建設会社での事例があります。ベトナム人技能実習生の男性(41)が、約2年間にわたり複数の日本人従業員から暴行を受け続けていました。会社に助けを求めても、「暴行を口外するな」「我慢しろ」と言われるばかりで、暴力は継続していました(※8)。
・棒で叩かれ、悲鳴を上げても容赦なく殴られた。
・声が小さいという理由で腹や腕を殴られ続けた。
・作業中に落とされた部品が顔面に直撃し、歯が折れて唇を縫う大けがを負った。
・上司から「自転車で転んだことにしておけ」と病院での虚偽説明を強要された。
・治療費は自己負担で、精神的ストレスから不眠症にも悩まされた。
この男性は2019年10月、妻子を養うため、「機械工場で日本の先端技術を学びたい」との夢を抱いて日本へ渡りました。しかし、仲介した監理団体からは「年齢が高い」という理由で希望を断られ、経験のないとび職に回されたのです。日本語力や作業スピードが追いつかないことが、さらに暴力の引き金になったと考えられます。
本来は国際貢献を目的とするはずの技能実習制度ですが、その裏では立場の弱い実習生が、深刻な暴力に苦しめられるという現実があります。いかなる理由があろうとも、暴力は決して許されません。
※8引用元:毎日新聞 「介護実習生に暴力、日本嫌いになった」
④方言が技能実習生の問題になる? 孤立させる言葉の壁
技能実習生は、都市部だけでなく地方へ配属されることも少なくありません(※9)。
※9引用元:外国人技能実習機構「外国人技能実習制度における課題等に関する調査」
そこで彼らを待ち受ける問題のが、日本語の知識だけでは理解しきれない「方言」です。地域独特の言葉は、彼らにとって乗り越えがたい壁となります。地域独特の言い回しやイントネーションは、標準語と異なり理解を困難にします。その結果、コミュニケーションの大きな壁となるのです。
令和5年度の「在留外国人に対する基礎調査」によると、日本語能力試験の最上級であるN1資格を持ち、日本在住歴が20年近い外国人でも、漢字の読み書きに苦労し、配偶者の助けを借りているそうです(※10)。
N1資格とは、幅広い場面で、自然な速さの会話やニュース、講義などを聞き、日本語の内容を詳細に理解できる能力です。
来日して間もない技能実習生にとって、この言語の壁は大きな課題となります。方言が日常的に使われる職場では、「何を言われているのか分からない」と戸惑う場面も多く、技能実習生の孤立感を増幅させます。
※10引用元:法務省「在留外国人に対する基礎調査」
⑤技能実習制度の問題:妊娠へのジレンマ
NHKの報道によると、2022年2月、福岡市のアパートで赤ちゃんの遺体が発見されました。この事件で、ベトナム国籍の技能実習生が死体遺棄の罪で起訴されました。
検察側の冒頭陳述では、被告の技能実習生は2021年12月に妊娠に気づき、「会社に知られたら強制送還されるかもしれない」と不安を抱え、誰にも相談できなかったとされています。
技能実習生は20代の若者が多く、妊娠・出産を経験する可能性のある年齢層です(※11)。
※11引用元:外国人技能実習機構「外国人技能実習制度における課題等に関する調査」
異国での慣れない生活や仕事による重圧に加え、妊娠というデリケートな問題を抱えながらも、「会社に知られたら強制送還されるかもしれない」という恐怖心から誰にも相談できなかったのでしょう。このような極度の不安が、今回の事件を招いた一因と考えられます。
妊娠、出産などを理由とした解雇や不利益な取扱いは法律で禁止されています。受け入れ施設の一方的な都合で、技能実習生の意に反して帰国させることは許されません(※12)。
※12引用元:NHK「ニュースサイト」
⑥借金から逃れるために失踪:技能実習制度が抱える問題
技能実習生が抱える問題の一つに、来日前に負う多額の借金があります。彼らは母国の送り出し機関に、高額な手数料や渡航費用を支払います。その費用をまかなうため、多くの場合、来日前に借金をするのです。
出入国在留管理庁が令和4年に行った調査によると、母国での支払い額は平均54万2,311円にのぼります(※13)。
技能実習生の50万円が、日本においてどの程度の価値を持つのか、これから見ていきます。
ダットさんは大学卒業後に、日本のヤマハ発動機のベトナム法人から内定を得た。「ベトナムの大卒としては最高クラスの初任給」を提示されたが、それでも日本円で4万円程度だったという。
澤田 晃宏(2020)「ルポ 技能実習生」ちくま新書
「令和3年賃金構造基本統計調査」では、日本の大卒初任給は、約22万5,400円であり、ベトナムとの経済の差は5倍以上あります(※14)。
渡航費約50万円は、日本円で250万円相当の負担に感じられます。技能実習生は来日時点で多額の借金を抱え、経済的に厳しい状況に置かれているのです。
「日本経済研究センター」の調べによると、ベトナム人技能実習生の平均給与は16万1,700円ほどです。また、その約半分を母国へ仕送りしています(※15)。
限られた給与から住居費、食費、税金などを差し引くと、自由に使えるお金はごくわずかです。また、一部の悪質な事業者は、最低賃金を下回る額で技能実習生を雇用しています。このような低賃金は、借金返済を一層困難にさせるのです。技能実習生の生活を困窮させ、失踪を選ばざるを得ない状況に追い込みます。
・※13引用元:出入国在留管理庁 「技能実習生の支払い費用に関する実態調査について」
・※14引用元:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
・※15引用元:「日本経済研究センター」
⑦研修計画はどこへ? 技能実習生が感じた問題
本来、技能実習制度は、開発途上国への技術移転を通じた国際貢献を目的としています。しかし現実には、計画された研修を十分に受けられないまま帰国する技能実習生もいます。
公立鳥取環境大学の王先生の調査によれば、技能実習生の58%が研修内容について「不十分」と感じていることが明らかになりました(※16)。
「非常に不十分」が30.5%、「やや不十分」が27.5%と、不十分と感じている割合が高いです。一方、「十分」と回答したのはわずか10%弱でした。このような状況が生じる背景には、以下の要因が考えられます。
・技能実習計画と実習内容の不一致
・指導体制の不備
これでは、せっかく日本で働いても経験を活かせません。技能実習制度本来の目的である、帰国後のキャリアアップや母国の経済発展への貢献も果たせなくなります。
※16引用元:公立鳥取環境大学「外国人研修・技能実習制度から日中間労働力協力を見る」
介護技能実習生の問題は未然に防げる!今すぐできる3つの対応策
技能実習制度には、言語の壁や文化の違いによるコミュニケーション不足などの課題があります。これらの問題が発生した場合、受け入れ施設は迅速に対応しなければなりません。しかし、本来であれば、問題が発生する前に未然に防ぐことが理想的です。
そのためには、受け入れ施設と技能実習生が十分なコミュニケーションを取ることが不可欠です。互いを理解し合うことが、問題の未然防止につながります。では、具体的にどのようなことから始めれば良いのでしょうか。
ここでは、介護施設が技能実習生のために、今すぐ始められる3つの具体的な取り組みについて解説します。
①外国人のための介護福祉専門用語集の活用
厚生労働省のサイトには、ベトナム語、インドネシア語、中国語など、複数の言語に翻訳された「外国人のための介護福祉専門用語集」が掲載されています。これは、介護現場で頻出する褥瘡や体位変換といった専門用語を、技能実習生の母国語で理解できるように翻訳したものです(※17)。
言葉の壁は、コミュニケーションを阻害する大きな要因の一つです。この用語集を活用することで、技能実習生は介護業務に必要な知識をスムーズに習得できます。また、介護施設側も共通の理解になるため、誤解やミスの防止にもつながります。
※17引用元:厚生労働省 「外国人のための介護福祉専門用語(ミャンマー語版)」
②外国人介護職員活躍の事例集を参考
他の介護施設で働く「外国人介護職員の活躍事例」は、参考になります。事例集には、外国人介護職員のインタビューや、受け入れ施設での具体的な取り組みが掲載されています(※18)。
これらの事例を参考にすれば、自施設での受け入れ体制構築や、技能実習生とのコミュニケーションのヒントが得られるでしょう。先行事例から学ぶことで、外国人技能実習生への理解につながります。
※18引用元:厚生労働省「外国人介護職員の活躍事例」
③生活オリエンテーション動画の視聴
出入国在留管理庁は、日本での生活を考えている外国人や、日本に在住している外国人を対象に、日本の生活ルールやマナーを紹介する「生活オリエンテーション動画」を作成・公開しています(※19)。
この動画は、ゴミ出しのルール、公共交通機関の利用マナー、税金の仕組みなど、日本での生活に必要な基本情報を17言語で提供しています。技能実習生が動画を視聴すれば、生活習慣や文化を理解でき不安やトラブルを軽減できるでしょう。
※19引用元:出入国在留管理庁 「生活オリエンテーション動画」
介護技能実習生、早く受け入れたほうがいい!「日本離れ」加速、高給の韓国へ流出
これまで人手不足を支える存在として期待されてきた外国人技能実習生。しかし、近年、より高い賃金を求めて、韓国を選ぶ傾向が加速しています(※20)。
以下は、日本の技能実習生と韓国の技能実習生に相当する外国人労働者の月給を比較したものです。
月給(円) | |
---|---|
技能実習1号 | ¥175,421 |
技能実習2号 | ¥192,976 |
技能実習3号 | ¥213,986 |
韓国の外国人労働者 | ¥231,200 |
参照:出入国在留管理庁「諸外国における非専門的・非技術的分野の外国人労働者受入れ制度について」
この数字が示すように、韓国は日本よりも高い賃金を提示しています。そのため、技能実習生にとって魅力的な選択肢となっています。
加えて、近年の急激な円安もこの状況に影響を与えています。母国への送金を主な目的として来日する技能実習生にとって、円安は実質的な収入減を意味するのです。同じ額の給与を稼いでも、為替レートの影響で母国に送れる金額が減ってしまいます。そのため、「日本で働くメリットが薄れた」と感じる技能実習生が増加しています。
こうした技能実習生の「日本離れ」は、介護業界にとって深刻な問題です。慢性的な人手不足が続く中、貴重な働き手である技能実習生の流出は、介護サービスの提供に支障をきたす可能性があります。そのため、早めの受け入れ準備が重要です。
※20引用元:「PRESIDENT Online」
介護技能実習生の受け入れ準備:3ステップ
先述の通り、近年はより高い給与水準を求めて、韓国などへ流出するケースが目立ってきています。この状況は、日本の介護業界の人材確保に大きな影響を及ぼす可能性があります。介護技能実習生の受け入れを検討されている介護事業者様は、早めに具体的な受け入れ準備を進めることが不可欠です。
ここでは、介護技能実習生の受け入れ準備について、3つのステップに分けて詳しく解説します。
①受け入れ手続き
介護分野で外国人技能実習生を受け入れるには、まず実習実施者(介護施設など)が「技能実習計画」を作成します。次に、その計画書を外国人技能実習機構(OTIT)に提出し、認定を受ける必要があります。
外国人技能実習機構(OTIT)は、技能実習制度を適正に運営し、技能実習生を保護する目的で設立された認可法人です。
技能実習計画には、技能実習生が従事する業務内容、指導体制、実習スケジュール、技能実習生の待遇などを詳細に記載します。
また、団体監理型で受け入れる場合は、事前に監理団体が出入国在留管理庁から許可を得る必要があります。
技能実習生の受け入れ方式には、「団体監理型」と「企業単独型」の2種類があります。団体監理型は、事業協同組合や商工会などの非営利団体が技能実習生を受け入れ、実習実施者(介護施設など)で技能実習を行う方式です。9割の受け入れ施設が団体監理型を利用しています。
②必要書類の準備
技能実習計画の認定申請時には、多くの書類が必要です。例えば、受け入れ機関の概要、指導担当者の経歴、雇用条件、実習生の経歴書、母国からの推薦状などです。技能実習生になるための主な要件は以下の通りです。
・年齢:18歳以上
・日本語能力:入国時点で日本語能力試験N4相当
・経験:母国での介護業務の経験
・推薦:母国政府など公的機関からの推薦
③研修の実施
実習計画が認定されたら、次は出入国在留管理庁に「在留資格認定証明書」の交付を申請します。在留資格が認められ、ビザが発給されれば、技能実習生は来日できます。
来日後は、まず入国後講習として1〜2か月間の研修を受講。その後、介護施設でのOJT(職場内研修)が始まります。OJT(職場実習)とは、On-the-Job Trainingの略で、実際の職場で先輩社員から指導を受けながら、仕事に必要な知識や技術を習得する研修方法です。
実習開始後も、監理団体による定期的な巡回指導と報告が義務付けられています。受け入れ施設は、労働関係法令や技能実習法を守り、技能実習生を適切に指導・保護する体制を整えなければなりません(※21)。
※21引用元:国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」
介護実習生の配置基準:人数上限と現場での注意点
技能実習生の受け入れには、様々なルールがあります。例えば、事業所ごとの受け入れ人数の上限設定です。このルールを理解せずに実習生を受け入れることは、法令違反となります。ここでは、技能実習生の配置基準と人数上限、現場での注意点について詳しく解説していきます。
介護実習生の人数上限:事業所ごとの常勤介護職員数で決まる
介護分野で受け入れ可能な技能実習生の人数には上限があります。この上限は、事業所ごとの常勤介護職員数に応じて定められています。上限を設ける理由は、実習生の受け入れ人数が無制限になると、指導体制が不十分になり、介護サービスの質が低下する可能性があるためです。
具体的には、実習生の総数は常勤介護職員の総数を超えることはできません。例えば、常勤介護職員が11人から20人の施設では、最大6人までの実習生を受け入れ可能です。職員数に応じて『1年間の実習生○名まで/全体で○名まで』と具体的な枠が定められています。
この人数制限は、技能実習制度の目的を考慮した措置です。人数制限を設けることで、実習生が単なる労働力として扱われることを防止できます。
介護現場での配置と監督:利用者安全が最優先
技能実習生を介護現場に配置するにあたっては、利用者(高齢者)の安全確保が最優先事項です。実習生は常に、指導者である日本人職員と同じ勤務時間帯に配置し、指導者の監督下で業務を行います。これは、実習生が十分な知識や技術を習得していない段階で、利用者に危険が及ぶ可能性を排除するためです。
施設種類ごとの留意点:訪問系サービスは対象外
技能実習生を受け入れ可能な介護施設は、主に施設・居住系サービスです。
・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護医療院
・有料老人ホーム
・グループホーム
一方、訪問介護など利用者宅を訪問するサービスは、適切な指導体制の確保が難しいため、技能実習の対象外です。
施設の種類によって法定の職員配置基準は異なりますが、いずれの場合も、技能実習生はその基準を満たす職員とはみなされません。厚生労働省の指針に沿って、各施設は十分な日本人職員を配置する必要があります。その上で、実習生を補助的に配置し、業務習熟度に応じて段階的に実習生の役割を広げていくことが重要です(※22)。
※22引用元:新日本法規「Q&A介護職種の技能実習生受入れの手引」
介護技能実習生の夜勤はいつから?
介護分野の技能実習制度は基準配置以外にも把握することがあります。その一つが、夜勤についてです。
それでは、介護技能実習生の夜勤は、いつから可能なのでしょうか?実は、1年目からでも条件を満たせば夜勤は可能です。必要な安全対策を講じれば、1年目の技能実習生でも夜勤に従事できます。
詳細は、解説記事「介護技能実習生の夜勤いつから可能?受け入れ施設が知っておくべき5つの注意点」をご覧ください。
介護技能実習生に求められる日本語能力N3とN4とは?介護の場面ごとに解説
他の分野の技能実習生であれば、業務に必要な専門用語を習得することで、ある程度仕事ができるかもしれません。しかし、介護分野では、利用者の気持ちを理解し、寄り添うことが求められます。そのため、専門用語だけでなく、日常会話レベルの日本語能力が不可欠です。
介護分野の技能実習生に求められる日本語能力の基準は、日本語能力試験(JLPT)のN3またはN4レベルになります。
日本語能力試験(JLPT)とは、日本語を母語としない人を対象とした、日本語能力を測定・認定する試験です。N1からN5までの5つのレベルがあり、N1が最も難しく、N5が最も易しいレベルとなります。
以下は、介護施設で想定される様々な状況において、日本語能力試験N3レベルとN4レベルの事例集です。
場面1:利用者との会話
▼N4レベル
利用者:「お腹が痛い…」
実習生:「お腹が痛いですか?」(症状をそのまま繰り返す)
利用者:「うん…」
実習生:「…」(どうすれば良いか分からず、困ってしまう)
▼N3レベル
利用者:「お腹が痛い…」
実習生:「いつから痛いですか?」「どんなふうに痛みますか?」(具体的な質問ができる)
利用者:「さっきから…」「キリキリする…」
実習生:「少し横になりますか?」「温かい飲み物を持ってきましょうか?」(状況に応じた提案ができる)
N4レベルの介護実習生は、利用者が「お腹が痛い」と訴えた場合、症状をそのまま繰り返すだけで、具体的な対応ができず困ってしまいます。
一方、N3レベルの介護実習生は、「いつから痛いですか?」「どんなふうに痛みますか?」など、具体的な質問をすることで利用者の状況を把握しようと努めます。さらに、「少し横になりますか?」「温かい飲み物を持ってきましょうか?」といった、状況に応じた簡単な提案をすることができます。
場面2:申し送り
先輩職員:「〇〇さんの食事、半分残されました。少し熱があるみたいです。」
実習生:「〇〇さん、食事、半分。熱…」(単語は聞き取れるが、全体の意味を正確に理解できない)
先輩職員:「〇〇さんの食事、半分残されました。少し熱があるみたいです。」
実習生:「〇〇さんは食欲があまりなかったんですね。熱は何度くらいでしたか?」(内容を理解し、追加の質問ができる)
N4レベルの実習生は、申し送りの際に単語は聞き取れても、文全体の意味を正確に理解できません。一方、N3レベルの実習生は、申し送りの内容を理解した上で、状況をより詳しく把握するための追加質問ができます。
場面3:介護記録
「食事」「半分」「残す」「熱」「少し」(単語は書けるが、文章として記録できない)
「〇〇さんの食事摂取量は半分程度。残された理由は不明だが、微熱(37.2℃)があるため、食欲不振の可能性あり。水分補給を促し、様子観察。」(状況を文章で記録できる)
N4レベルの実習生は、介護記録を「食事」「半分」「残す」といった単語の羅列でしか記録できず、具体的な状況を文章として表現することができません。
一方、N3レベルの実習生は、「〇〇さんの食事摂取量は半分程度」といったように、具体的な状況を把握し、数値を含めて文章で記録することができます。さらに、「食欲不振の可能性あり」といった考察や、「水分補給を促し、様子観察」といった対応まで記録できます。
外国人介護技能実習生:受け入れの指導マニュアル
技能実習生の受け入れにあたり、制度や注意点を理解することは重要です。しかし、制度を理解するだけでは、技能実習生が介護現場で活躍できるようにはなりません。彼らが現場で真に活躍するためには、質の高い指導が不可欠です。
では、技能実習生が介護現場で活躍できるような質の高い指導とは、具体的にどのようなものでしょうか? どのように指導すれば良いのでしょうか?
そのヒントとなるのが、厚生労働省が令和元年度に作成した「外国人介護職員の受入れと活躍支援に関するガイドブック」です(※23)。
このガイドブックでは、技能実習制度の介護職種について、詳しく解説しています。技能実習生に求められる日本語能力の基準、質の高い指導を行うための指導、生活指導員の役割についても明確に解説しています。
※23引用元:厚生労働省「外国人介護職員の受入れと活躍支援に関するガイドブック」
まとめ
日本における介護人材不足は深刻で、外国人技能実習制度がその解決策の一つとして注目されています。しかし、この制度は本来の開発途上国への技能移転という目的から外れ、低賃金や長時間労働などの問題が多発しています。2024年には、これらの問題を解消するため「育成就労制度」が創設され、2027年までに施行される予定です。
介護分野の技能実習生は最長5年の在留期間で、毎年約8,000人が新たに働き始めています。受け入れ施設は、長時間労働、残業代未払い、ハラスメント、言葉の壁、妊娠への不安、多額の借金、研修不足といった問題に注意が必要です。これらの問題を防ぐため、専門用語集の活用や、他の施設の事例を参考にすることが推奨されます。
近年、より高賃金の国へ技能実習生が流出する「日本離れ」も起きています。介護施設は早急に受け入れ準備を進める必要があります。また、配置基準や人数上限、夜勤の可否、求められる日本語能力(N3またはN4レベル)など、様々なルールを理解することも重要です。
厚生労働省のガイドブックなどを参考に、適切な指導体制を整え、技能実習生を単なる労働力ではなく、国際貢献と人材育成の対象として捉えることが、介護業界にとって不可欠となります。