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【徹底解説】介護分野における外国人材受け入れ時の課題-企業のための完全ガイド

 急速に進む高齢化社会において、日本国内は介護人材が不足しています。多くの介護事業者が、外国人材の活用を検討していることでしょう。介護分野では技能実習や特定技能など複数の在留資格制度があり、それぞれに特徴や条件が異なります。

本記事では、介護企業で外国人材を受け入れる際の課題とは何か、メリット・デメリット、そして将来的な展望まで詳しく解説します。

外国人材の採用を検討している介護事業者の方々にとって、外国人材受け入れ時の判断材料としていただけますと幸いです。

目次

日本における外国人材受け入れの現状について

近年、日本の労働市場は特定分野での人材不足が深刻化しています。特に介護分野においては、高齢者人口の増加に伴い介護人材の需要が拡大しています。一方、若年層の介護職離れは進み、人材不足が顕著です。

このような状況を背景に、政府は外国人材の受け入れ拡大に向けた制度改革を進めてきました。内容は、技能実習制度の見直しや特定技能制度の創設などです。

しかし、制度ごとに目的や条件が異なるため、介護事業者にとっては適切な制度選択が重要な課題となっています。

この項では、介護分野において外国人材の受け入れが必要とされる背景と、現在の受け入れ状況について解決いたします。

介護分野への外国人、受け入れ背景とは

介護分野における外国人材の受け入れは、日本の深刻な人材不足を背景に進められてきました。厚生労働省の推計によると、2026年にはプラス約25万人の介護人材が必要と予測されています。(※1)この数字は、団塊の世代が75歳以上となる「2025年問題」に直面する日本の介護現場の厳しい現実を示しています。

これほどまでに介護人材が不足している背景は以下の通りです。

介護人材不足の背景

  • 日本の高齢化率は世界最高水準
  • 介護サービスの需要が急速に増加
  • 介護職は身体的・精神的負担が大き
  • 賃金水準が他産業と比較して低い
  • 夜勤を含む不規則な勤務体制
  • 社会的評価が低い

これらが、若年層の介護職離れを加速させている要因と考えられます。

こうした状況を打開するため、政府は2008年にEPA(経済連携協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の受け入れを開始しました。その後、2017年には技能実習制度に介護職種が追加され、2019年には新たに特定技能制度が創設されるなど、段階的に外国人材の受け入れ範囲を拡大してきました。

これらの制度は単なる人手不足の解消だけでなく、異なる文化背景を持つ人材が介護現場に加わることで、多様な視点やケア方法を取り入れるという副次的な効果も期待されています。また、諸外国との経済連携強化や国際貢献といった外交的側面も持ち合わせているのです。

介護分野における外国人材の受け入れは、日本の介護現場を維持するための大切な取り組みとなります。

※1引用元:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

介護分野での外国人材の数と推移

介護分野における外国人材の受け入れ数は、各制度の整備とともに着実に増加しています。厚生労働省の統計によると、令和5年6月〜令和6年3月時点で介護分野で就労する外国人材は約5万8,000人に達し、5年前と比較して約3倍に増加しました。この数字は、日本の介護人材全体(約210万人)の約2.8%を占めるまでに成長しています。(※2)

在留資格別に見ると、以下の通りです。

在留資格 人数
技能実習生 約1万5,000人
特定技能生 約2万8,000人
EPA介護福祉士候補者・介護福祉士 約3,000人
在留資格「介護」 約9,000人

最も多いのは技能実習生であり、少ないのはEPA介護福祉士候補者・介護福祉士でした。特に2019年の特定技能制度導入以降、介護分野の外国人材は急速に増加しました。コロナ禍で一時的に減少したものの、入国制限の緩和とともに再び増加傾向にあります。

国籍別に、多い順では以下の通りです。

  1. ベトナム
  2. インドネシア
  3. フィリピン

特にベトナムからの人材は全体の約40%を占め、その割合は年々増加しています。これらの国々は比較的若い人口構成を持ち、海外就労へのモチベーションが高いことが背景にあります。

地域別の分布では、首都圏や大都市を中心に外国人材の受け入れが進んでおり、近年は地方部への受け入れも徐々に増加しています。これは地方の人材不足がより深刻であることや、住環境面でのメリットが関係しているでしょう。

受け入れ施設の種類については、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの入所系施設での受け入れが多い傾向にありますが、デイサービスなどの通所系サービスでの受け入れも増加しています。これは、施設形態によって業務内容や勤務体制が異なることから、外国人材の適性や希望に合わせた配置が進んでいることを示しています。

介護分野における外国人材の数は着実に増加中です。その役割も重要性を増しているでしょう。しかし、日本の介護人材不足の規模を考えると、外国人材の更なる活用が求められる状況です。そのためには、受け入れ制度の整備や支援体制の充実が不可欠となります。

※2引用元:外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について

介護における外国人材の在留資格は何がある?

介護分野において外国人材を受け入れるための在留資格は、以下の通り、主に4つの制度が存在します。

外国人材(介護)の在留資格

  • 特定技能
  • 技能実習
  • EPA
  • 在留資格「介護」

それぞれの制度は目的や条件が異なるため、介護事業者は4つの制度の違いを正確に理解し、自施設の状況や目的に合った制度を選択することが重要です。

また、外国人材にとっても、各制度の特徴や将来的なキャリアパスを考慮した選択が必要になります。制度ごとの違いを理解することで、より効果的な外国人材の活用が可能になるでしょう。

ここでは、4つの制度について、その概要や在留期間、条件などを詳しく解説していきます。それぞれの制度の特徴を把握し、ぜひ自施設に適した外国人材受け入れの方法を検討する際の参考にしてください。

特定技能とは|制度の概要・在留期間について

特定技能制度は、一定の専門性・技能を有する外国人材の受け入れを目的としています。この制度は、人手不足が深刻な特定産業分野において、即戦力となる人材の確保が求められています。2019年4月に新たに創設され、介護分野はその対象14分野のひとつとして指定されました。

特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類がありますが、現時点で介護分野では「特定技能1号」のみが適用されています。特徴は以下の通りです。

特定技能1号の特徴

  • 在留期間は通算で最長5年間
  • 家族の帯同は認められない
  • 日本語能力試験N4以上(またはJFT-Basic200点以上)必要
  • 介護技能評価試験に合格していないといけない
  • 雇用契約に基づく直接雇用で働ける
  • 転職も可能

特定技能の大きな特徴は、労働者としての権利が保障されていることです。このように、特定技能では、厳しい条件はあるものの柔軟な働き方が可能となります。しかし、技能実習を修了して特定技能へ移行する場合は、以下の変更ができます。

  • 最長で10年間(技能実習の最長5年間+特定技能1号の最長5年間)の在留が可能
  • 3年間の技能実習を修了した場合は、日本語能力試験N4以上(またはJFT-Basic200点以上)と介護技能評価試験が免除される

受け入れ機関では、支援計画を作成し外国人材の生活支援を行うことが義務付けられています。支援計画の作成は、登録支援機関へ委託するか、自ら作成するかのどちらかです。

特定技能制度のメリットとしては、即戦力となる人材を受け入れられることです。入国時にすでに一定の知識・技能を有していることから早期の戦力化となることが期待できます。また、技能実習から移行した人材であれば、日本での生活・就労経験があるため、スムーズな受け入れができるでしょう。

一方、課題として以下の点があげられます。

特定技能制度の課題

  • 制度がまだ比較的新しいことから運用面での不明確さがある
  • 最長5年間という期間制限があるため長期的な人材育成が難しい
  • 受け入れ時は適正な労働条件や雇用環境の整備が求めらる

特定技能制度は、介護分野において即戦力となる外国人材を受け入れるための重要な制度です。技能実習から特定技能への移行も含め、長期的な視点に立った人材活用が求められます。

技能実習とは|制度の概要・在留期間について

一方、技能実習制度は開発途上国への技能移転による国際貢献を目的として1993年に創設された制度です。介護職種については2017年11月から対象となりました。

技能実習制度は以下の通り、3段階に分かれます。それぞれ在留期間も異なります。

項目 在留期間
技能実習1号 最長1年間
技能実習2号 2年間
技能実習3号 2年間

技能実習期間は合計で、最長5年間の在留が可能です。ただし、次の段階に進むためには、それぞれ所定の技能評価試験に合格する必要があります。介護職種の技能実習生は、母国での介護関連の実務経験は不要です。しかし、日本語能力試験N4相当以上の日本語能力が求められます。また、入国後は6カ月間の座学研修を経て実習が開始され、技能実習計画に基づいた段階的な実習が行われます。

技能実習生の受け入れパターンは、以下の通りです。

  • 監理団体(事業協同組合や商工会など)を通じた団体監理型
  • 海外に支店や取引先を持つ企業が直接受け入れる企業単独型

介護分野では団体監理型が主流となっています。技能実習制度の特徴は、実習計画に基づく段階的な技能習得です。受け入れ側には技能習得をするため、以下の整備が義務付けられています。

技能実習生受け入れ時の整備内容

  • 技能実習指導員の配置
  • 適切な実習環境の整備
  • 実習生の保護
  • 適正な実習

技能実習生が働きやすい環境の整備が求められます。技能実習生を受け入れるメリットは以下の通りです。

技能実習制度のメリット

  • 基本的な日本語能力を持つ人材を受け入れられる
  • 最長5年間の計画的な人材育成が可能である
  • 監理団体を通じて様々な支援を受けられる

監理団体の支援を受けながら長期的な人才育成ができる一方、課題は以下の点があります。

技能実習制度の課題

  • 国際貢献が目的のため人材確保を主目的とした受け入れできない
  • 指導や支援に相応の負担がかかる
  • 監理団体への監理費など一定のコストが発生する
  • 介護施設の利用者へプライバシーや尊厳に配慮した実習内容の設計が必要

技能実習制度は、外国人材の育成と活用を両立させる制度として、多くの介護事業者が利用しています。技能実習修了後に特定技能へ移行するキャリアパスも確立されつつあり、長期的な視点での人材育成に活用することができるでしょう。

EPAと特定技能は何が違う?|制度の概要・在留期間について

EPA(経済連携協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の受け入れ制度と特定技能制度は、いずれも介護分野における外国人材受け入れの制度です。しかし、それぞれ大きな違いがあります。

まず、EPAは2008年にインドネシア、2009年にフィリピン、2014年にベトナムとの経済連携協定に基づいて開始された二国間の経済関係強化を目的とした制度です。特定技能は、2019年に創設された人手不足解消を主目的とした制度になります。対象国に制限はありません。

違いを一覧で見ていきしょう。

項目 EPA 特定技能
受け入れ要件
  • 母国の看護学校卒業者または大学卒業者
  • 介護士資格保持者であること
  • 日本語能力試験N4以上
  • 介護技能評価試験の合格
在留期間 介護福祉士資格取得までは最長4年間 最長5年間
家族の帯同 認められる 認められない
職場の移動自由度
  • 同一の施設での就労
  • やむを得ない事情がある場合のみ移動が認められる
契約期間を満了すれば比較的自由に職場を変更することができる
目標 介護福祉士国家資格の取得 国家資格取得は必須ではない

在留期間に関しては、EPAは、資格取得後は更新回数に制限なく在留が可能です。つまり、介護福祉士資格取得により永続的な就労が可能になります。

EPAの受け入れ施設では、候補者が国家試験に合格できるよう学習支援を行うことが求められます。EPAの外国人材は、実務と学習の両立が必要です。国家資格取得後は日本での長期的なキャリア形成が可能となり、より専門性の高い介護人材として活躍することができるでしょう。

一方、特定技能1号は在留期間に上限がありますが、5年間の就労経験を活かして、資格取得や在留資格「介護」への移行を目指すこともできます。

両制度の受け入れ数を比較すると、EPAは2008年の開始以来、累計で約7,000人程度(※3)であるのに対し、特定技能は2019年の開始からわずか4年余りで約2万8,000人に達しており、近年は特定技能による受け入れが主流となっています。(※2)

このように、EPAと特定技能はそれぞれ異なる特徴を持ち、目的や状況に応じて選択する必要があります。EPAは高度な専門性を持つ人材の長期的な育成に、特定技能は比較的短期間での人材確保に適していると言えるでしょう。

※2引用元:外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について

※3引用元:経済連携協定に基づく受入れの枠組

在留資格「介護」とは|制度の概要・在留期間について

在留資格「介護」は、2017年9月に新設された在留資格で、日本の介護福祉士国家資格を取得した外国人材が介護福祉士として日本で働くことを可能にする制度です。この制度は、高度な専門性を持つ介護人材の確保と定着を目的としています。

在留資格「介護」の最大の特徴は、日本の介護福祉士国家資格の取得が必須条件であるという点です。この資格を取得するためには、日本の介護福祉士養成施設を卒業するか、実務経験3年以上と実務者研修の修了を経て国家試験に合格する必要があります。つまり、一定期間の日本での学習または就労経験が前提となります。

在留期間については、最初に1年または3年が付与され、その後は更新に制限はなく永続的に日本で就労することが可能です。また、一定の条件を満たせば「永住者」の在留資格への変更も可能であり、長期的なキャリア形成を視野に入れた制度設計となっています。

家族の帯同については、配偶者や子どもの帯同が認められています。この点は、外国人材の生活の安定や定着率の向上に置いて大きく関わるでしょう。

就労範囲に関しては、介護または介護の指導を行う業務に従事することが条件となっています。具体的には、以下の通りです。

  • 介護施設や訪問介護事業所などでの介護業務
  • 介護職員への指導業務

介護福祉士として専門性を活かした業務に従事することが求められています。

在留資格「介護」のルートとしては、主に以下の3つがあります。

在留資格「介護」の取得ルート

  • 日本の介護福祉士養成施設を卒業し、介護福祉士国家資格を取得する方法
  • EPA介護福祉士候補者として来日し、国家試験に合格して資格を取得する方法
  • 技能実習や特定技能などの在留資格で実務経験を積み、国家試験に合格して資格を取得する方法

在留資格「介護」は、介護福祉士としての専門性を活かせれば、さまざまなメリットがあります。具体的には以下の通りです。

在留資格「介護」のメリット

  • 国家資格を持つ専門職として高い専門性を活かした就労が可能
  • 更新制限がなく長期的なキャリア形成ができる
  • 家族帯同が可能で生活の安定が図れる
  • 介護福祉士としての専門性が評価されると、比較的高い処遇を期待できる

しかし、在留資格「介護」を利用するためには、介護福祉士国家資格の取得が必要という課題があります。資格取得までの課題は以下が挙げられます。

介護福祉士国家資格の取得までの課題

  • 在留期間内で資格を取得するハードルが高い
  • 働きながら勉強しなければいけない
  • 日本語での国家試験合格が求められるため、高い日本語能力が必要

特に国家試験の合格率は、日本人でも約70%程度、外国人に関しては年度によって30%〜40%程度と決して高くない状況です。(※4)

在留資格「介護」は、特定技能や技能実習などの在留資格からのキャリアアップの道筋としても位置づけられています。長期的な視点での人材育成を考える場合には、最終的な目標として在留資格「介護」の取得を見据えたキャリアパスの設計が重要です。

※4引用元:「第37回介護福祉士国家試験結果」において

外国人材を受け入れる際のデメリットは?対策も解説

国人材の受け入れは人材不足が解消し、職場の多様性が高まるといったメリットがある一方で、様々な課題も存在します。特に介護現場では、利用者の生命や健康に直接関わる業務であるため、言語や文化の違いによる問題が重大な影響を及ぼす可能性があります。

受け入れに際しては、これらの課題を正しく理解し、適切な対策を講じることが重要です。日本人スタッフや利用者との間で生じるコミュニケーションの問題や文化の違いから生じる誤解など、具体的な課題とその解決策について詳しく見ていきましょう。

効果的な対策を講じることで、外国人材がその能力を十分に発揮し、介護現場で活躍できる環境を整えることができます。

利用者とのコミュニケーションで生じる問題・解決方法

介護現場における外国人材と利用者とのコミュニケーションは、サービス提供の質に直結する重要な要素です。言語や文化の違いから生じる様々な課題と、その効果的な解決方法について考察します。

まず、最も基本的な問題は言語の壁です。特に高齢の利用者が話す方言や独特の言い回し、早口での会話は、基本的な日本語を学んだ外国人材にとって理解が困難な場合があります。

また、認知症の利用者との意思疎通は、日本人スタッフでも難しいことがあり、外国人材にとってはさらにハードルが高いでしょう。このような言語の壁を克服するための効果的な対策としては、以下のものが挙げられます。

言語の壁の対策

  • 基礎的な介護用語や現場で頻繁に使用される表現をリスト化
  • 方言や高齢者特有の表現についても、施設内で使用頻度の高いものをまとめておく
  • コミュニケーションボードや翻訳アプリなどのツールを活用する
  • AIを活用したリアルタイム翻訳機器の導入
  • 非言語コミュニケーション(ジェスチャーや表情、声のトーンなど)についての教育
  • 利用者側の理解と協力を得る
  • 「バディシステム」の導入
  • 継続的な日本語学習支援

基礎的な介護用語や頻繁に使用される表現をリスト化し、外国人材がいつでも確認できるようにしておくとよいでしょう。特に緊急時や複雑な内容の伝達が必要な場面では、コミュニケーションボードや翻訳機器など、視覚的な補助ツールが意思疎通を助けます。

言語が完全に通じない場合でも、温かい笑顔や穏やかな声かけは利用者に安心感を与えます。ただし、非言語コミュニケーションの解釈は文化によって異なる場合があるため、日本の文化的背景についても教育することが重要です。

また、外国人材を受け入れる前に、利用者や家族に対して外国人スタッフの導入について説明しておくとよいでしょう。理解を求めることで、コミュニケーション上の問題が生じてもスムーズに解決できます。実際に、最初は戸惑いを見せていた利用者が、時間の経過とともに外国人スタッフに親しみを持ち、積極的に交流するようになるケースも少なくありません。

また、外国人材と利用者の間に日本人スタッフが入り、コミュニケーションの橋渡しをする「バディシステム」も効果的です。

特に入職初期は、日本人スタッフと外国人スタッフがペアを組んで業務を行うことで、言語面でのサポートと同時に、日本の介護現場特有の対応方法を学ぶ機会にもなります。

長期的な視点では、外国人材の日本語学習支援が最も重要です。業務終了後や休日を利用した日本語学習の機会を提供したり、外部の日本語教室への通学を支援したりすることが効果的です。特に介護現場で必要な敬語や専門用語に焦点を当てた学習プログラムを組むことで、実践的なコミュニケーション能力の向上につながります。

これらの対策を組み合わせて実施することで、利用者と外国人材の間のコミュニケーションの質を向上させることができます。双方の歩み寄りと相互理解が、より良い介護サービスの提供につながるのです。

職員間のコミュニケーションで生じる問題・解決方法

介護現場では、チームワークが極めて重要であり、職員間のスムーズなコミュニケーションが不可欠です。外国人材と日本人スタッフの間で生じるコミュニケーション上の課題と、その解決策について詳しく見ていきましょう。

職員間コミュニケーションにおける主な課題のひとつは、専門用語や業務上の細かな指示の伝達です。介護現場では、利用者の状態変化や処置内容など、正確に伝える必要がある情報が多数あります。また、申し送りやカンファレンスなど、複数のスタッフが参加する場面では、話の流れについていけない外国人材も少なくありません。

さらに、日本特有の「察する文化」や遠回しな表現が、直接的なコミュニケーションに慣れた外国人材には理解しづらいです。

例えば、日本人スタッフが「できれば〜してほしい」と表現した場合、それが実際には「必ずやってほしい」という意味であることを理解できないケースもあります。これらの問題に対する効果的な解決策としては、明確でシンプルな日本語を使用することです。専門用語や略語を避け、具体的な指示を心がけることで、誤解を減らせるでしょう。

また、重要な情報は口頭だけでなく、文書やメモなどの視覚的な手段も併用することが有効です。

業務マニュアルの多言語化や、よく使う専門用語の対訳リストの作成も有効な対策です。特に基本的な介護手順や緊急時の対応など、重要な内容については、外国人材の母国語にも翻訳したマニュアルを用意すると良いでしょう。

文化の違いで起こるトラブル、どう解決する?

介護現場で外国人材と日本人スタッフの間に生じる文化的なすれ違いや対立は、業務効率やチームワークに深刻な影響を及ぼします。

特に顕著なのが、時間感覚、上下関係の認識、そして介護に対する価値観の違いです。これらの文化的差異は、単なる誤解から始まり、最終的には相互不信や職場環境の悪化につながることもあります。

特定技能外国人と技能実習生のどちらでも、この文化的摩擦は共通の課題です。こうした問題が発生する根本的な理由は、文化や習慣が異なる環境で育った人々が、お互いの「当たり前」を理解せずに共同作業を行っているからです。例えば以下のような場合があります。

  • 東南アジアの一部地域では時間に対する柔軟な感覚があり、日本の「5分前行動」の価値観が理解できない
  • 日本特有の「察する文化」は、より直接的なコミュニケーションを好む国々の人々には混乱を招く
  • 家族が高齢者の世話をするのが当然という文化背景を持つ外国人材が多いため、日本の専門的介護サービスの考え方は新鮮であると同時に戸惑う

これらの文化的トラブルを解決するためには、まず相互理解の場を設けることが重要です。定期的な文化交流会や、お互いの国の習慣や価値観について学び合う研修会は、単なる親睦を超えた深い理解を促進します。

次に、明確なガイドラインと期待値の設定が必要です。「なぜそうするのか」という理由まで丁寧に説明することで、単なる指示ではなく納得感のある行動変容につながるでしょう。

また、お互いに歩み寄り慣れていく過程を理解することも大切です。日本の文化や習慣を一方的に押し付けるのではなく、外国人材の文化や考え方から学ぶ姿勢を示すことで、真の意味での多文化共生が実現します。特定技能と技能実習では、受け入れの目的や滞在期間が異なるため、文化的適応へのアプローチも変える必要があります。

より長期的な就労が見込まれる特定技能では、日本社会へ溶け込むための支援が重要です。一方、技能実習では、母国に持ち帰る知識や技術との関連性を意識した文化理解の促進が求められます。

どちらの場合も、一時的なトラブル対応ではなく、継続的な相互理解の仕組みづくりが成功への鍵となるでしょう。

外国人材を受け入れて変わった現場のメリット

介護分野における外国人材の受け入れは、単なる人手不足の穴埋めにとどまらず、介護現場に多くの変化と新たな価値をもたらしています。特定技能と技能実習という異なる制度を通じて来日する外国人材は、それぞれの特性を活かしながら日本の介護現場に貢献しています。

特定技能外国人は一定の介護知識と日本語能力を持ち、即戦力として活躍できます。一方、技能実習生は基礎から学ぶことを前提としているため、日本式介護の理念から丁寧に習得していくことが可能です。

これらの外国人材が介護現場にもたらす具体的なメリットは多岐にわたります。人手不足の解消はもちろんのこと、職場の雰囲気の活性化、国際的な視点の導入、長期的な人材育成など、量的にも質的にも現場に変化が生まれています。

ここでは、外国人材の受け入れによってもたらされた主なメリットについて、特定技能と技能実習の特性の違いも踏まえながら詳しく見ていきましょう。

人手不足が解消される

介護業界における外国人材の最大のメリットは、深刻な人手不足の緩和です。厚生労働省の推計によれば、2026年には約25万人の介護人材が不足するとされており、この状況下で外国人材は貴重な戦力となっています。(※1)

特に夜勤や早朝シフトなど、日本人スタッフの確保が難しい時間帯で外国人材が活躍することで、サービスの質を維持しながら職員の負担軽減にもつながっているのです。

なぜ外国人材の参入が人手不足解消に効果的かというと、特定技能と技能実習という複数の制度を組み合わせることで、異なるスキルレベルと雇用期間に対応できるからです。特定技能は即戦力として最長5年間(1号の場合)就労可能であり、技能実習は最長5年間かけて段階的に技能を習得していくため、短期的な人員確保と長期的な人材育成を並行して進められます。

実際、外国人材の受け入れを始めた多くの施設では、職員一人あたりの業務負担が軽減され、利用者へのケアの質向上にもつながっていると報告されています。

人手不足を解消するための別の方法として、介護業務を細かく分けて専門性を高める取り組みがあります。日本人スタッフと外国人材が役割分担することで、それぞれの強みを活かした効率的な業務遂行が可能になります。

例えば、コミュニケーションを必要とする複雑な業務は日本人スタッフが担当し、体力を要する入浴介助などは若い外国人材が中心となるといった分業体制が構築されています。

技能実習生は基本的な介護技術の習得段階から始めるため、比較的シンプルな業務から徐々に担当範囲を広げていく傾向がありますが、特定技能外国人はより早い段階から幅広い業務に従事することが可能です。

このように、外国人材の受け入れは単なる「人数合わせ」ではなく、介護サービス全体の再構築と効率化につながる可能性を秘めています。人手不足という量的な問題解決だけでなく、介護サービスの質を向上させ、介護人材が長く続けられる仕組みをつくるきっかけにもなっています。

※1引用元:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

在留資格によっては長期間の就労が見込める

外国人材の受け入れにおいて、在留資格による就労期間の違いは施設運営に大きな影響を与えます。特に注目すべきは、特定技能1号(最長5年)から特定技能2号への移行が将来的に検討されている点です。これが実現すれば、実質的な更新回数制限がなくなり、長期にわたる安定した人材確保が可能になります。

一方、技能実習生は原則として最長5年間(1〜3号まで)の就労となり、その後の継続雇用には他の在留資格への変更が必要です。長期就労の可能性が介護現場にもたらす最大のメリットは、採用・育成コストの効率化です。新たな人材を継続的に採用し教育するよりも、すでに施設の業務に慣れた人材が長く働き続ける方が、研修コストの削減や業務効率の向上が期待できます。

実際にある介護施設では、技能実習から特定技能へ移行した外国人材が中核スタッフとして活躍しています。後輩の外国人材の指導役も担うことで、人材育成の好循環が生まれました。また、長期間の就労が見込まれる在留資格は、外国人材自身のキャリア形成にも好影響を与えます。自身の将来が見通せることで、日本語能力の向上や専門知識の習得へのモチベーションが高まります。

特定技能では、将来的に介護福祉士資格の取得も視野に入れた支援体制を整えている施設も多く、こうした長期的視点に立った人材育成が可能です。さらに、地域社会との関係構築という観点でも、長期就労は大きなメリットをもたらします。日本の地域社会や文化への理解が深まることで、利用者やその家族とのコミュニケーションも円滑になり、介護サービスの質向上につながります。

特に地方の介護施設では、外国人材が地域に根付くことで、施設と地域社会の橋渡し役として期待される例も増えています。

このように、在留資格による就労可能期間の違いを正確に理解し、事業計画に組み込むことが、外国人材活用の成功には不可欠です。特に特定技能制度は、今後の制度改正によってさらに柔軟な運用が期待されるため、最新の動向に注目する必要があるでしょう。

明るい外国人による雰囲気の変化

介護施設に外国人材が加わることで、職場の雰囲気が大きく変わることは多くの事業者が実感しているメリットです。一般的に、東南アジアをはじめとする外国人材は、明るく前向きな性格の方が多く、その笑顔やポジティブなエネルギーが職場全体に活力をもたらします。

この変化は、特定技能外国人も技能実習生も共通してもたらす効果であり、介護現場の重要な質的向上につながるでしょう。多くの外国人材は自国の家族を支えるという明確な目標を持って来日しており、その使命感が仕事への前向きな姿勢となって表れます。

また、異文化環境で働くという挑戦自体を楽しんでいる方も多く、その好奇心と学びへの意欲が周囲の日本人スタッフにも良い刺激となっているのです。さらに、多くの外国人材の出身国では、高齢者を敬う文化が根付いており、その尊敬の念が利用者との関わりにも自然と表れます。

こうした明るい雰囲気の変化は、利用者にも好影響です。実際の介護現場からは、「外国人スタッフが来てから利用者の表情が明るくなった」「外国人スタッフとの会話を楽しみにしている利用者が増えた」といった声が多く聞かれます。

特に、自国の文化や料理を紹介するイベントなどを通じて、単調になりがちな施設生活に新たな刺激が加わることで、利用者の生活の質(QOL)向上にもつながるでしょう。

また、日本人スタッフにとっても、外国人材との協働は新たな視点や発見をもたらします。「当たり前」と思っていた介護のやり方を外国人材に説明する過程で、改めてその意義を考えるきっかけになります。外国人材の柔軟な発想から業務改善のヒントが生まれたりすることも少なくありません。このような相互作用は、職場全体の活性化と専門性の向上につながる重要な要素といえるでしょう。

特定技能外国人と技能実習生では、日本語能力や介護知識に差があるため、職場への影響の出方にも若干の違いがあります。しかし、どちらの制度においても、「多様性がもたらす活力」という本質的なメリットは同じです。

外国人材の明るさと熱意を最大限に活かすためには、彼らを単なる「人手」ではなく、職場に新たな価値をもたらす「人財」として尊重する姿勢が何より重要でしょう。

国際貢献ができる

外国人材の受け入れは、単なる人材確保策にとどまらず、グローバルな視点での社会貢献の側面も持っています。特に技能実習制度は、本来「技能移転」が主目的です。日本で習得した介護技術や知識を母国に持ち帰り、自国の介護の質を高めることが期待されています。

一方、特定技能制度は労働力確保が主目的です。しかし、結果として外国人材のキャリア形成や技術習得を支援することになり、間接的な国際貢献につながります。この国際貢献の具体的な意義は3つあります。

  1. 高齢化が急速に進む東南アジア諸国において、日本式介護の知識と技術が伝播することで、これらの国々の高齢者ケアの質向上に貢献できる。ベトナムやインドネシアでは、日本での技能実習を経験した人材が中心となって介護施設を設立するケースもある。
  2. 外国人材が介護福祉士などの国家資格を取得することで、国際的に通用する専門性を身につけ、自身のキャリアアップにつながる。これは個人の経済的自立を支援することで、間接的に母国の経済発展にもつながる。
  3. 介護という国境を越えた共通課題に対して、国際協力の精神で取り組むことで、相互理解と友好関係の促進につながる。

技能実習と特定技能では、国際貢献の形に違いがあります。

技能実習では、最終的な帰国が前提となっているため、習得した技術の母国への移転が明確に期待されています。実際、技能実習を終えて帰国した人材が、母国で日本式介護を広めるトレーナーとなっているケースも少なくありません。

一方、特定技能では、より長く就労できるため、日本社会への定着とキャリア形成を通じた貢献が期待されています。将来的に介護福祉士資格を取得し、専門職として日本で長く活躍することで、日本の介護を支えながら、自身の経済的成功を通じて母国との架け橋となる人材も増えています。

このように、外国人材の受け入れは、一見すると人手不足解消という国内問題への対応に見えますが、実は国際社会における日本の役割や責任とも深く関わる取り組みです。受け入れ施設としても単に「働き手」としてだけでなく、「未来の介護を担う国際人材」を育てているという視点を持つことで国際貢献につながるでしょう。

介護企業における外国人材への給料の相場は?在留資格別に紹介

外国人材の雇用を検討する際、最も重要な要素の一つが給与設定です。在留資格によって求められる技能レベルや期待される役割が異なるため、適切な報酬体系を構築することが重要となります。

特定技能・技能実習・EPA(経済連携協定)・在留資格「介護」のそれぞれにおいて、法的要件や市場相場は異なりますが、いずれの場合も日本人と同等以上の処遇が基本原則です。

適切な給与設定は、優秀な人材の確保・定着だけでなく、外国人材の生活基盤の安定にも直結する重要な問題です。また、今後ますます国際的な人材獲得競争が激化する中で、日本の介護業界の給与水準は国際比較の観点からも注目されています。

ここでは、在留資格別の給与相場について詳しく見ていきましょう。

特定技能生はいくら払うべき?

特定技能生への給与設定は、人材確保の成否を左右する重要な要素です。制度上、特定技能外国人には日本人と同等以上の給与を支払うことが義務付けられており、この「同等以上」の基準は地域の最低賃金ではなく、同一業務に従事する日本人の賃金水準と比較されます。

現在の相場としては、月給20万円から25万円程度が一般的であり、これに各種手当や残業代が加算される形です。(※5)この給与水準が適切である理由はいくつかあります。まず、特定技能1号の要件として介護技能評価試験と日本語能力試験N4以上が求められており、一定の専門性と言語能力を有する人材であることが挙げられます。

また、近年は韓国やシンガポールなど他のアジア諸国も外国人介護人材の獲得に積極的であり、国際的な人材獲得競争の観点からも魅力的な給与設定が必要です。

さらに、特定技能では転職の自由が認められているため、処遇面で不満があれば他の施設へ移ってしまうリスクもあります。実際の給与体系を見ると、基本給に加えて様々な手当が設定されているケースが多いです。例えば以下の様な手当があります。

  • 資格取得支援手当(例:介護福祉士資格取得で月額2万円加算)
  • 日本語能力向上手当(例:N3取得で月額5千円、N2取得で1万円加算)

このように、スキルアップを促進する仕組みを導入している施設が増えて来ました。また、住宅手当や家族手当を充実させることで、安定した生活基盤の構築を支援している例も見られます。

給与だけでなく、キャリアパスの明確化や教育研修機会の充実など、総合的な処遇パッケージを考えることも重要です。

特定技能から介護福祉士資格取得を経て在留資格「介護」へのステップアップを視野に入れた長期的なキャリア支援策は、優秀な人材の確保・定着に効果的です。このキャリア支援策は、多くの施設で実証されています。

給与水準の設定は、単なるコスト計算ではなく、「人財」への投資という視点で検討することが成功の鍵と言えるでしょう。

※5引用元:(8) 在留資格区分別にみた賃金

技能実習生はいくら必要?

技能実習生の給与設定においては、「技能実習」という制度の性質と実習生の役割を踏まえた適切な水準が求められます。

技能実習制度は母国への技能移転を主目的としており、労働力の確保が主目的ではありません。しかし、実習生が実際に介護業務に従事する以上、適正な報酬は不可欠です。

技能実習生の給与相場は、月給17万円から20万円程度が一般的であり、これに諸手当や残業代が加わります。(※5)特定技能よりもやや低い水準となっているのは、入国時の日本語能力や介護知識が比較的初歩的であることを反映しています。

技能実習生の給与に関して特に注意すべき点は、最低賃金法の厳守と「同等報酬の原則」です。技能実習生に対しても、同じ業務を行う日本人と同等以上の給与を支払うことが求められており、この点は監理団体や入国管理局によるチェックも厳格化されています。

また、実習期間中の給与上昇も計画的に設定することが望ましく、技能実習1号から3号へと進むにつれて、習得する技能の高度化に応じた給与アップを設定している施設が多いです。

技能実習生の給与は基本給のほか、様々な手当で構成されるケースが一般的です。

技能実習生の給与手当

  • 住居費は、実習生寮を提供する場合でも、家賃として給与から一定額(通常2万円前後)を控除する
  • 技能検定合格手当
  • 日本語能力試験合格手当

居住費は控除額が過大にならないよう注意が必要です。スキルアップに連動した手当を設定することで、実習生のモチベーション向上につなげている施設も増えています。

実習期間終了後のキャリアパスも考慮した給与設計も重要です。技能実習3号修了後に特定技能への移行を視野に入れ、その際の給与アップを明示することで、5年間の実習期間を通じた目標設定が可能になります。

実際、技能実習から特定技能へ移行したケースでは、月給2〜3万円のアップを設定している例が多く見られます。このように、在留資格の切り替えを見据えた一貫性のある給与体系の構築が、外国人材の長期的な育成・活用には欠かせません。

※5引用元:(8) 在留資格区分別にみた賃金

EPAはいくら払うべき?

経済連携協定(EPA)に基づく外国人介護福祉士候補者の受け入れは、技能実習や特定技能とは別の枠組みで運営されています。

EPAでは候補者の渡航費や研修費など、雇用側が負担すべきコストが多岐にわたります。具体的には、候補者一人あたりの初期費用として、以下が必要です。

EPAの初期費用 内訳

  • 受け入れ調整機関への手数料(約20〜30万円)
  • 日本語研修費(約60万円)
  • 渡航費(約10〜15万円)

加えて、介護福祉士試験対策の研修費用として年間約30万円程度を見込んでおくとよいでしょう。これらの直接的なコストに加え、受け入れ施設では日本人職員による指導や生活サポートのための間接コストも発生します。

このように、EPA候補者の受け入れには相応の費用がかかりますが、長期的な人材確保の視点から考えると、その投資価値は十分にあると言えるでしょう。なぜなら、EPA候補者は最長で4年間の滞在が可能であり、介護福祉士国家試験に合格すれば在留期間の上限なく就労できるからです。

候補者への適切な投資は、将来的な安定した人材確保につながる可能性が高いのです。

在留資格「介護」多めに払うべき?

在留資格「介護」は、介護福祉士の国家資格を取得した外国人に与えられる在留資格です。この資格保持者は高度な専門性を持つ人材として認められており、給与水準も他の外国人材と比較して高く設定する必要があります。

一般的に、在留資格「介護」を持つ職員に対しては、日本人の新卒介護福祉士と同等以上の給与(月給22〜25万円程度)が適正です。(※6)この給与水準が「多め」に感じられるかもしれませんが、彼らの専門性と日本での長期就労可能性を考慮すると、適切な投資と考えられます。

介護福祉士の国家資格を持つ外国人材は、専門的なケアの提供だけでなく、他の外国人スタッフへの指導や橋渡し役となることも期待できます。このような多面的な役割を担える人材であることを踏まえると、相応の処遇が必要です。

さらに、彼らに適切な給与を支払うことは離職防止にも直結します。国家資格を持つ外国人材は転職の自由度も高いため、市場価値に見合った処遇をしなければ、他の事業所に流出するリスクが高まるでしょう。

長期的な視点では、適切な処遇による人材の定着が、採用・教育コストの削減につながると考えられます。

※6引用元:介護人材の現状と対応等について

介護分野における外国人材の定着率は?離職防止はどうする?

介護分野における外国人材の活用を成功させるためには、単に人材を確保するだけでなく、いかに定着させるかが重要な課題です。

特定技能と技能実習では制度の特性上、定着率にも違いが見られ、受け入れ企業の姿勢や環境整備によって大きく左右されます。

日本の介護現場で外国人材がどのように働き、どのような理由で離職するのか、それを防ぐために企業側はどのような対策を講じるべきなのかを解説します。

離職率の現状について

介護分野における外国人材の離職率は、在留資格によって大きく異なります。

技能実習生の場合、3年または5年の実習期間中の離職率は比較的低いものの、制度上の制約から実習期間終了後は帰国せざるを得ないため、長期的な人材確保という観点では課題があります。

一方、特定技能生については、介護分野全体での離職率は約10〜15%と推定されており、これは日本人介護職員の年間離職率(約15〜20%)と比較してやや低い水準です。(※6)

離職の主な理由としては、以下のものがあげられます。

離職理由

  • 給与への不満
  • キャリアアップの機会不足
  • 職場環境や人間関係の問題
  • 言語や文化の壁による孤立感

特に注目すべきは、単に給与だけでなく、成長機会や職場環境といった要素も重要な離職要因となっている点です。また、技能実習から特定技能への移行段階でも離職リスクが高まる傾向があります。

介護分野では職種や地域により、人材の偏りがあることも課題です。都市部での特定技能外国人の集中や、小規模事業所での人材確保の難しさがあります。

外国人材の定着を図るためには、これらの離職要因を総合的に理解し、適切な対策を講じることが必要なのです。

※6引用元:介護人材の現状と対応等について

離職防止のためサポート体制を整えよう

外国人材の離職を防ぐためには、包括的なサポート体制の構築が不可欠です。

まず、生活面のサポートとして、初期セットアップを支援することが重要です。具体的には以下の支援を行うとよいでしょう。

生活面のサポート内容

  • 住居の確保
  • 銀行口座開設
  • 携帯電話契約

また、地域コミュニティとの交流機会を設けることで、社会的孤立を防ぐことができます。

業務面では、段階的な業務拡大と丁寧な指導が必要です。特に、日本語能力に応じた業務マニュアルの整備や、定期的な研修機会の提供が求められます。通常の業務指導に加え、介護福祉士などの資格取得支援を行うことで、キャリアアップへの意欲を高めることができるでしょう。

さらに、精神的なサポートも重要です。家族との離別や文化の違いによるストレスを抱えやすい点に配慮が必要です。以下の様な対策方法があげられます。

精神的サポート内容

  • 母国語で相談できる窓口の設置
  • 定期的な面談による悩みの早期発見と解決
  • 日本人スタッフとの相互理解を深めるための交流イベントや研修

これらのサポートを通じて、外国人材が「大切にされている」と実感できる環境を作ることが、離職防止の鍵となります。

適切なサポート体制は、単に離職を防ぐだけでなく、彼らのモチベーション向上やパフォーマンス向上にもつながるでしょう。

日本の介護分野における外国人材の人数は?

日本の介護分野での外国人材活用は、近年急速に拡大しています。2019年4月に特定技能制度が開始されて以来、技能実習制度と合わせて、介護分野における外国人労働者の数は着実に増加しています。

令和5年6月〜令和6年3月時点で介護分野で就労する外国人材は約5万8,000人になりました。内訳は以下の通りです。(※2)

特定技能 技能実習 EPA候補者
約2万8千人 約1万5千人 約3千人

この数字は前年比で約20%の増加を示しており、外国人材の活用が、国内の労働力確保においてますます重要な役割を果たしていることがわかります。

特に注目すべきは、特定技能外国人の増加率の高さです。技能実習制度に比べて就労条件や移動の自由度が高い特定技能は、外国人材にとって魅力的な選択肢となっています。その結果、技能実習から特定技能への移行も増えており、今後さらに特定技能外国人の比率が高まることが予想されます。

地域別に見ると、首都圏や関西圏などの都市部に集中する傾向があり、地方の介護施設では外国人材の確保が困難な状況です。

これらの統計から、日本の介護分野における外国人材は、すでに不可欠な存在になりつつあることが読み取れます。今後の高齢化の進展を考えると、さらなる受け入れ拡大が必要になるでしょう。

ただし、単に人数を増やすだけでなく、質の高いケアの提供と外国人材の定着を両立させる取り組みが求められています。

※2引用元:外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について

介護企業における外国人材の国別人数ランキング|受け入れ国上位5カ国を紹介

日本の介護分野で活躍する外国人材は、アジアを中心とした複数の国々から来日しています。令和6年12月の統計を基にした国別人数ランキング上位5カ国は以下の通りです。(※7)

国名 全体の割合
ベトナム 46.9%
インドネシア 18.8%
フィリピン 9.9%
ミャンマー 9.6%
中国 6.2%

これら5カ国で全体の約90%を占める状況です。特に技能実習制度では、送り出し機関の整備が進んでいるベトナムからの受け入れが圧倒的に多い傾向にあります。

一方、特定技能では、日本語能力試験の合格率の高いフィリピンやインドネシアからの人材も増加傾向です。近年はミャンマーからの受け入れが増加傾向です。令和5年から6年の間だけでも5000人以上の受け入れをしています。(※7)

EPAについては、実施国が限定されており、インドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国のみです。国ごとに、それぞれ以下の様な特徴が評価されています。

国ごとの外国人材の特徴

  • ベトナム人材→適応力の高さ
  • フィリピン人材→英語力と介護技術の習得の速さ
  • インドネシア人材→穏やかな国民性と礼儀正しさ

受け入れ企業側は、国ごとの文化や宗教の違いに配慮した環境整備も、外国人材の定着率向上につながるでしょう。

※7 引用元:特定技能制度運用状況 ①

最も多い国はベトナム!主要供給国の現状

介護分野における外国人材の最大の供給国はベトナムです。その背景には、ベトナム国内での日本語教育の普及、両国間の経済連携の強化、そして日本への高い関心があります。

ベトナムからの人材は、適応力が高く勤勉であると評価されることが多いです。特定技能生だけで令和6年末時点で、介護分野で働くベトナム人は約13万人に達し、全体の半分を占めています。(※7)

ベトナムでは、日本への労働者送り出しに特化した教育機関が各地に設立されており、渡航前から日本語や基本的な介護技術を学ぶ環境が整っています。このように事前教育が充実しているため、来日後はスムーズに適応できるでしょう。

また、ベトナム政府も海外労働者派遣を国家戦略として位置づけており、日本への人材送り出しを積極的に支援しています。

一方で、以下のような課題もあるのが現状です。

受け入れ時の課題

  • 受け入れ企業での教育・支援体制の質にばらつきがある
  • ベトナム国内での日本語教育の質も均一ではないため言語の壁に直面するケースもある
  • ベトナム人コミュニティ内での情報共有が活発なため、労働環境や待遇に関する問題が広まりやすい

一部企業での問題が全体のイメージに影響することもあります。このような状況を踏まえ、受け入れ企業には適切な環境整備と支援体制の構築が求められているのです。

※7 引用元:特定技能制度運用状況 ①

供給が増えてきている国

近年、日本の介護分野における外国人材の供給源が多様化しており、従来の主要国に加えて新たな国々からの人材流入が増加しています。

特に注目されているのが、カンボジア、ネパール、スリランカです。これらの国々からの介護人材は、まだ全体の中では少数ですが、年率30〜40%という高い成長率を示しています。

それぞれの特徴は以下の通りです。

国名 特定技能制度での来日人数 特徴
カンボジア 178人 勤勉さと温和な国民性

利用者や同僚との関係を大切にする傾向

ネパール 1,233人 日本語習得に意欲的で、コミュニケーション能力が高い
スリランカ 72人 医療・看護の基礎知識を持つ人材が多い

(令和5年7月までの人数)

(※8)

これらの国々からの人材供給増加の背景には、各国での日本語教育の拡充や、送り出し機関の整備があります。

また、日本側も受け入れ対象国の拡大を図っており、二国間の協力体制が強化してきました。多様な国々からの人材受け入れは、文化的多様性をもたらす一方で、宗教や食習慣などへの配慮が必要になる場合もあります。

受け入れ企業には、これらの違いを理解し尊重する姿勢が求められるでしょう。

※8 引用元:外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について

新たに加わった労働力の供給国は?

介護分野における外国人材の供給国は、さらに拡大しつつあります。近年、新たに注目されている供給国は、モンゴル、タイ、バングラデシュです。

これらの国々は、従来の主要供給国と比べるとまだ人数は少ないものの、日本の介護人材市場に新たな選択肢をもたらしています。特徴は以下の通りです。

国名 特定技能制度での来日人数 特徴
モンゴル 264人 適応力が高く、日本の文化や習慣への理解も深い

冬の寒さに慣れているため、日本の北部地域での就労にも適している

タイ 115人 ホスピタリティの高さと穏やかな性格を持つ

利用者からの信頼を得やすい

バングラデシュ 26人 勤勉で学習意欲が高い

(令和5年7月までの人数)

(※8)

これらの新興供給国からの人材受け入れには、まだ課題も多く存在します。例えば、日本語教育の体制が十分に整っていない場合があり、来日後の言語習得に時間がかかることもあります。

また、送り出し機関の質にもばらつきがあり、適切な事前教育を受けていない人材も少なくありません。一方で、これらの国々では日本への関心が高まっており、今後の潜在的な供給力は大きいと考えられます。

受け入れ企業側は、これらの新興供給国の特性を理解し、適切な受け入れ・教育体制を構築することが重要です。

※8 引用元:外国人介護人材の受入れの現状と今後の方向性について

外国人材を受け入れる際の介護実習受け入れマニュアルの内容は?

外国人材を介護現場で効果的に受け入れるためには、適切な準備と体制整備が不可欠です。技能実習生と特定技能外国人では、それぞれ制度の特性に応じた受け入れ体制が必要になります。

この章では、両制度における受け入れマニュアルの基本的な内容と、実際の運用における注意点について解説します。適切な受け入れ体制を構築することは、外国人材になるべく早く即戦力となってもらい、定着してもらうための重要な要素です。

特に、言語や文化の違いを考慮した指導方法や、生活面でのサポート体制の整備が求められます。外国人材を単なる労働力としてではなく、共に成長するパートナーとして迎え入れる姿勢が、成功の鍵を握っているのです。

受け入れ準備をしよう

外国人材を円滑に受け入れるためには、来日前からの計画的な準備が重要です。

まず、施設内での受け入れ体制を明確にしましょう。具体的には、指導担当者と生活支援担当者を選定し、それぞれの役割と責任を明確化しましょう。以下のように役割を分けることがおすすめです。

担当者の役割

  • 指導担当者は介護技術の教育を担当する。
  • 生活支援担当者は住居や生活面のサポートを担当する。

両者が連携しながら、外国人材をトータルサポートする体制を構築することが求められます。

次に、受け入れ環境の整備が必要です。職場環境としては、以下の準備をしておくとよいでしょう。

職場環境の整備

  • 多言語表記のマニュアルや案内表示の作成
  • コミュニケーションツールの準備

特に、専門用語や介護特有の表現については、理解しやすい言葉や視覚的な資料で説明できるよう準備しておくことがおすすめです。

生活環境の整備では、以下の準備が必要です。

生活環境の整備

  • 住居の確保
  • 通勤手段の確認
  • 生活必需品の準備

住居については、文化や宗教上の配慮も必要になる場合があります。

また、既存スタッフへの事前教育も欠かせません。外国人材の文化的背景や習慣、コミュニケーション上の注意点などを共有し、受け入れに対する理解と協力を得ることが重要です。

場合によっては、異文化理解のための研修を実施することも効果的でしょう。これらの準備を通じて、外国人材が来日後にスムーズに職場と生活に馴染めるよう、環境を整えることが求められるのです。

入国後の生活や悩みのサポート体制について

外国人材が来日して最初に直面するのは、生活環境の違いによる戸惑いです。この時期のサポートは、その後の定着や業務への適応に大きく影響します。

まず重要なのは、基本的な生活基盤の確立です。住居設備の使用方法、ゴミの分別方法、公共交通機関の利用方法など、日本特有のルールやシステムについて丁寧に説明する必要があります。

また、住民登録、銀行口座開設、携帯電話契約などの行政手続きについても、同行支援や通訳の手配が望ましいでしょう。

次に、日常生活における相談体制の構築が重要です。言語の壁がある中での生活は、小さな困りごとでも大きなストレスとなります。以下のような体制を構築しておくと心理的安定につながるでしょう。

外国人材の相談体制

  • 定期的な面談の実施
  • 気軽に相談できる担当者の配置
  • 必要に応じた通訳サービスの利用
  • 母国の家族との連絡手段の確保
  • 同国出身者同士のコミュニティ形成支援

さらに、健康管理面でのサポートも欠かせません。以下のようなサポートがあるとよいでしょう。

健康管理面のサポート

  • 日本の医療システムの説明
  • 近隣の医療機関の紹介
  • 必要に応じた通院同行

特に言語の壁がある中での受診は不安が大きいため、医療通訳サービスの活用や、多言語対応可能な医療機関の情報提供が重要です。また、異なる気候や食生活への適応をサポートするための情報提供や、定期的な健康チェックの実施も効果的です。

これらの包括的なサポート体制により、外国人材に安心感を与え組織への愛着が深まるでしょう。

関係機関と連携してサポート

外国人材を効果的に支援するためには、様々な関係機関との連携が不可欠です。まず、監理団体や登録支援機関との密接な連携を構築しましょう。在留資格に関する手続きや法的要件の遵守のサポートは以下の組み合わせで行われます。

  • 技能実習生の場合は監理団体
  • 特定技能外国人の場合は登録支援機関

定期的な情報交換を行い、制度変更や注意点を常に把握することが重要です。

次に、以下にある地域の行政機関との連携も重要です。

地域の行政機関

  • 市区町村の外国人相談窓口
  • 国際交流協会
  • ハローワーク

これらは、様々な支援プログラムや情報を提供しています。特に、日本語学習機会や生活相談サービスなどは、外国人材の生活適応に大きく関わります。多くの自治体では、外国人向けの情報提供や相談会を実施しているため、これらを積極的に活用するとよいでしょう。

また、地域の医療機関や福祉サービス提供者との連携体制も構築しておくことが必要です。言語対応可能な医療機関のリストを作成しておくことや、緊急時の対応方法を事前に確認しておきましょう。

さらに、同じく外国人材を受け入れている地域内の他の介護施設との情報交換やネットワーク形成も、共通の課題解決に役立ちます。

これらの関係機関との連携は、単に問題解決のためだけでなく、外国人材に対する多様な成長の機会にもつながります。地域にあるさまざまな資源を活用することで、受け入れ施設だけでは提供しきれない支援やサービスを補完できるでしょう。

指導・教育はどうやって進める?

外国人介護人材に対する効果的な指導・教育は、言語や文化の違いを考慮した独自のアプローチが必要です。

まず基本となるのは、段階的な指導計画の策定です。日本語能力や介護経験に応じて、基本的な業務から徐々に専門的な業務へと移行する計画を立てることが重要です。特に最初の3ヶ月間は、基礎的な介護技術と職場でのコミュニケーションに重点を置き、業務に慣れるための時間を十分に確保しましょう。

次に、「見える化」を意識した指導方法を採用することが効果的です。言葉だけでの説明ではなく、実演や写真・動画の活用、図解入りマニュアルの作成などが有効です。

また、専門用語や業務特有の表現については、やさしい日本語への言い換えや、必要に応じて母国語での補足説明を行うことで理解を促進できます。

実務指導の際には、「報告・連絡・相談」の重要性を特に強調し、分からないことがあれば遠慮なく質問するよう繰り返し伝えることが大切です。

また、指導内容が正しく理解されているか確認するために、実際にやってみせてもらう「復唱・実演」の機会を設けることも効果でしょう。

さらに、業務指導だけでなく、日本語学習支援も重要な要素です。業務中に使用する専門用語や表現をリスト化して学習材料として提供したり、施設内で日本語学習会を定期的に開催したりすることで、言語能力の向上を支援できます。

これらの教育的アプローチを通じて、外国人材が自信を持って業務に取り組める環境を整えることが、早期戦力化と定着促進につながるのです。

外国人材の介護業務の評価はどうする?

介護分野における外国人材の評価方法は、特定技能と技能実習で大きく異なります。技能実習制度では、技能実習計画に基づいた段階的な評価が行われ、1年目・2年目・3年目と実習の進行に合わせて習得すべき技能レベルが明確です。

実習生は各年次で実施される技能評価試験に合格することで次のステップに進めます。この評価は、あくまで「技能移転」という観点から行われるため、母国への技術持ち帰りを意識した内容になります。

一方、特定技能では、日本人と同等の業務を行うことを前提としているため、評価も日本人職員と同様の基準で実施されることが一般的です。

雇用契約に基づいた人事評価や、介護現場での実務能力を重視した評価が中心となります。特定技能外国人を雇用する企業は、日本語能力の向上や国家資格取得のサポートなども含めた総合的な評価システムを構築することが求められます。

このように、評価の目的や基準が両制度間で異なるため、受け入れ側の企業は制度に応じた適切な評価体制の整備が必要です。

特に日本語能力の評価については、技能実習ではJLPT N4程度が求められるのに対し、特定技能では介護日本語評価試験の合格が条件となっており、より業務に特化した日本語能力が求められます。

キャリアアップの支援をしよう

外国人材のキャリアアップ支援においても、特定技能と技能実習では異なるアプローチが必要です。

技能実習制度の場合、その目的は「母国への技能移転」であるため、キャリアアップ支援も帰国後を見据えたものになります。

例えば、日本で習得した介護技術を母国でどのように活かせるかという視点からの指導や、母国の介護事情に合わせた知識の提供が必要でしょう。また、技能実習修了後に特定技能への移行を希望する場合は、そのための試験対策支援などを考慮する必要があります。

これに対し、特定技能制度では、より長期的な日本での就労を視野に入れたキャリア支援が必要です。介護福祉士などの国家資格取得を目指すための学習支援や、マネジメント能力の育成など、日本の介護業界でのキャリアパスを見据えた支援策が求められます。

具体的には、以下の通りです。

特定技能生のキャリアパス支援内容

  • 介護福祉士実務者研修の受講支援
  • 国家試験対策講座の提供
  • 特定技能2号への移行

これらを見据えた、高度な専門知識の習得機会を設けることが考えられます。

外国人材のキャリアアップを支援する際には、個々の目標や希望を丁寧にヒアリングし、それぞれの制度の特性を踏まえた上で最適なプランを提案することが大切です。単なる労働力としてではなく、成長する人材として捉え、適切な投資を行うことが結果的に施設全体のサービス品質向上にもつながるでしょう。

また、キャリアアップ支援が充実している施設は口コミなどを通じて評判が広がり、優秀な外国人材の獲得にも有利に働くという好循環を生み出す可能性があります。

介護の現場で外国人材が困難に感じる場面

介護の現場において外国人材が直面する困難は、特定技能と技能実習での違いはほとんどなく、共通する部分が多くあります。

しかし、その対応方法や支援体制については、各制度の特性を踏まえた取り組みが必要です。

外国人材が困難を感じる場面を理解し、適切なサポート体制を構築することは、彼らの能力を最大限に引き出し、質の高い介護サービスを提供する上で不可欠です。文化的背景の違いから生じる価値観の違いや、言語の壁によるコミュニケーション上の課題など、多面的な理解が求められます。

技能実習生の場合は比較的短期間の滞在を前提としているため、基本的な業務習得に焦点を当てた支援が中心ですが、特定技能生に対しては、より専門的な知識や判断力を要する場面での支援も重要になってきます。

では、具体的にどのような場面で困難が生じやすいのか、以下で詳しく見ていきましょう。

利用者への「自立支援」に対する困惑

外国人介護スタッフが最も困難を感じる場面の一つが、日本の介護における「自立支援」の考え方です。

日本の介護では、「利用者ができることは見守りながら自分でやってもらう」という自立支援の理念が根付いています。しかし、多くの外国人材の文化的背景とは異なる場合があります。特に、高齢者を敬い、できる限り手助けするという文化を持つ国々からの人材にとっては、「できることは手助けせず見守る」という考え方が理解しにくいのです。

技能実習生の場合、基本的な介護技術の習得に重点が置かれるため、自立支援の理念について深く理解する機会が限られています。そのため、実習実施者は理念よりも実践的な手順を中心に指導し、「なぜそうするのか」という背景については、実習生の日本語レベルに合わせて徐々に説明していくアプローチが効果的です。

一方、特定技能外国人は、より専門的な業務を担当することが期待されるため、自立支援の理念についても深い理解が求められます。制度の性質上、長期的なキャリア形成を視野に入れた教育が可能であり、事例検討会などを通じて自立支援の実践について学ぶ機会を積極的に設けることが重要です。

また、両制度に共通して効果的なのは、具体的な成功事例を視覚的に示すことです。例えば、自立支援によって利用者のADLが向上した事例をビデオや写真で紹介すると、理解を深めやすいでしょう。

文化的背景の違いを尊重しながらも、日本の介護理念の意義を伝えることは、外国人材が介護の専門性を高める上で不可欠なプロセスと言えるでしょう。

このような丁寧な教育支援は、特に特定技能外国人の定着率向上にもつながる重要な投資です。

申し送りの理解の難しさ|分からない時は分からないと言ってもらう

介護現場での「申し送り」は、利用者の状態変化や対応について共有する重要な引き継ぎになります。しかし、専門用語や略語、方言が混じることもあり、外国人材にとっては理解が難しい場面の一つです。

技能実習生と特定技能外国人では、この課題への対応方法に違いがあります。

技能実習制度では、監理団体や日本語教師による定期的なフォローアップが制度化されているため、申し送りの理解に関する問題点を第三者が発見しやすい環境があります。監理団体の巡回指導時に、申し送りノートの確認や実習生へのヒアリングを行い、理解度をチェックする仕組みが整っているのです。

一方、特定技能制度では、登録支援機関による支援が任意であり、直接雇用の場合は職場内での対応が中心となります。外国人材はわかっていなくても「分からない」といい出せず、「分かった」と答えてしまう場合があります。そのため、特定技能外国人が「分からない」と言いやすい職場環境作りが重要でしょう。

例えば、申し送り時に「理解できていますか?」と全体に問いかけるのではなく、「〇〇さんはどう思いますか?」と個別に意見を求めたり、申し送り後に外国人スタッフに内容を要約してもらう時間を設けたりする工夫が効果的です。

両制度に共通して有効な対策としては、申し送りの視覚化があります。以下のような工夫をすることで、言語の壁を超えた情報共有が可能になります。

申し送りの視覚化方法

  • 重要なポイントをホワイトボードに書き出す
  • カラーペンで印をつけて優先度を示す
  • イラストや写真を活用する
  • 申し送りで使われる専門用語や略語のリストを作成

また、定期的に学習する機会を設けることも効果的です。特に特定技能外国人に対しては、将来的には申し送りを行う側になることも視野に入れた教育が重要です。徐々に責任と権限を拡大していく過程で、分からないことを質問する習慣を身につけられるよう支援することが求められます。

このように、制度の特性を踏まえた上で最適な支援体制を構築することが、外国人材の能力を最大限に引き出す鍵となるでしょう。

一人で解決しようとする?困ったときは報連相をしてもらう

多くの外国人材に見られる傾向が、「困ったことを一人で解決しようとする」という行動パターンです。これは単に言語の壁だけでなく、「迷惑をかけたくない」「失敗を指摘されたくない」といった心理的要因や、出身国の文化的背景も影響していると考えられます。

この傾向は技能実習生と特定技能外国人の両方に見られますが、制度の特性を踏まえて対応方法を検討しなければなりません。

技能実習制度の場合、実習実施計画に基づいた段階的な指導が行われ、監理団体による定期的な巡回指導もあるため、比較的構造化された環境で学ぶことができます。そのため、報連相(報告・連絡・相談)のルールを明確に設定し、「いつ」「誰に」「どのように」報告するかを具体的に示すことが効果的です。

例えば、「利用者の体調に少しでも変化を感じたら、すぐに担当職員に報告する」といったシンプルで明確なルールを設けることで、判断に迷うことなく行動できるようになります。

一方、特定技能外国人は、より高度な判断力や応用力が求められる場面も多く、単純なルール化だけでは不十分な場合があります。そのため、「なぜ報連相が重要なのか」という背景や理念についても理解を深める機会を設けることが重要です。

例えば、実際に起きたヒヤリハット事例を取り上げ、「一人で解決しようとしたことでどのようなリスクが生じたか」「チームで対応することでどのような良い結果につながったか」を具体的に示すことで、報連相の重要性を実感してもらうことができます。

両制度に共通して有効なのは、報連相を積極的に行った外国人材を他のスタッフの前でも褒める文化を作ることです。

「一人で解決しようとせず、適切に報告してくれたおかげで大事に至らなかった」といったポジティブなフィードバックを全体の前で行うことで、報連相の重要性を組織全体で共有することができます。

また、定期的な個別面談の機会を設け、困っていることや不安なことを言いやすい関係性を構築することも大切です。

特に特定技能外国人にとっては、将来のキャリアパスにつながる重要なコミュニケーションスキルとして報連相の習慣を身につけることが、日本での長期的な就労成功のカギとなるでしょう。

このように、制度の特性を踏まえながらも、外国人材が安心して報連相できる環境づくりを進めることが、介護の質と安全を守る上で不可欠です。

介護分野における外国人材を受け入れる費用は?

外国人材の受け入れには様々なコストが発生しますが、特定技能と技能実習では、その費用構造に大きな違いがあります。

技能実習制度は監理団体を介した受け入れが基本であるのに対し、特定技能は直接雇用も可能であるなど、制度の基本的な構造の違いが費用にも影響します。

適切な予算計画を立てるためには、これらの違いを正確に理解し、自施設に最適な受け入れ方法を検討することが重要です。また、費用対効果を高めるための補助金や支援制度の活用方法についても知っておくべきでしょう。

以下では、それぞれの制度における具体的な費用項目と、その特徴について詳しく解説します。

採用・研修にかかるコスト

外国人材を受け入れる際の採用・研修コストは、特定技能と技能実習で大きく異なります。

技能実習制度の場合、監理団体の監理費用や初期費用にかかる金額・内容は以下の通りです。

項目 金額 内容
監理費用
  • 入国前〜就労までの総額:平均55万
  • 月額:平均4.4万円程度
  • 日本語教育
  • 生活指導
  • 行政手続きのサポート
初期費用 一人当たり30〜50万円程度
  • 技能実習生の渡航
  • 入国後講習費用
  • 保険料など
居住費
  • 初期費用:一人当たり20〜40万円程度
  • 月々の家賃補助:3〜6万円程度
  • アパートの借り上げ
  • 家具・家電の購入費用

(※9)

一方、特定技能制度では、登録支援機関を利用する場合のみ支援費用が発生し、直接雇用の場合はこの費用を削減できる可能性があります。

特定技能制度の受け入れでかかる費用は以下の通りです。

項目 金額 内容
登録支援機関の支援費用 1人雇用するための総額:平均39万6千円
  • 人材紹介料
  • 採用活動費用
研修費用 一人当たり10〜30万円程度 職場業務に特化した研修
居住費
  • 初期費用:一人当たり20〜40万円程度
  • 月々の家賃補助:3〜6万円程度
  • 住居の確保は必要だが、賃貸契約の主体は本人になる
  • 住居の初期費用(敷金・礼金など)のサポート
  • 連帯保証人の問題への対応

(※9)

特定技能外国人の場合、技能試験や日本語試験の合格者を採用するため、基礎的な技術や日本語能力はすでに備わっていますが、職場や業務に特化した研修は必要です。

また、居住環境の整備コストも重要な要素です。技能実習制度では、実習実施者が住居を提供することが決められています。

特定技能外国人も同様に住居を確保するためのサポートは必要です。住居関連のコストは地域によって大きく異なりますが、初期費用だけでなく月々の家賃補助も見込んでおくと良いでしょう。

このように、採用・研修にかかるコストは制度によって構造が異なるため、自施設の状況や長期的な人材戦略に合わせて選択することが重要です。

技能実習制度は監理団体のサポートが手厚い分、コストが高めになる傾向があり、特定技能制度は自施設の取り組み次第でコストを最適化できる可能性があります。ただし、コスト削減だけを重視すると外国人材の定着率や業務習得度に悪影響を及ぼす可能性もあるため、適切な投資と考える姿勢が必要です。

研修や住環境への投資は、外国人材の満足度や定着率に直結する要素であり、長期的には人材確保のための重要な要素となり得ることを忘れてはなりません。

※9 引用元:外国人介護人材に係る人員配置基準上の取扱いについて (介護人材の確保と介護現場の生産性

補助金・支援制度を活用しよう

外国人材の受け入れには様々なコストがかかりますが、それらを軽減するための補助金や支援制度も数多く存在します。

これらを効果的に活用することで、費用に関わる負担を減らしながら質の高い人材育成が可能になります。特定技能と技能実習では、活用できる補助金や支援制度が異なる場合もあるため、それぞれの特性を理解した上で申請を検討しましょう。

技能実習制度に関連する主な補助金としては、厚生労働省の「外国人介護人材受入れ促進事業」があります。この事業では、介護施設等が技能実習生を受け入れる際に、以下の支援が受けられます。(※)

外国人介護人材受入れ促進事業で受けられる支援

  • 日本語学習
  • 介護技能の習得支援
  • 生活面での支援

また、日本語学習に特化した「介護の日本語学習支援事業」では、学習教材の提供や日本語講師の派遣などのサポートが受けられる場合もあります。

一方、特定技能外国人の受け入れに関して活用できる事業は以下の通りです。

  • 「介護職種の技能実習生等に対する日本語習得支援等事業」
  • 「外国人介護人材の質の向上等に資する学習支援事業」

これらの補助金の支援内容は以下の通りです。

特定技能制度に活用できる補助金の支援内容

  • 日本語能力の向上
  • 介護技術の習得
  • 介護福祉士国家資格取得に向けた支援

特に、特定技能外国人のキャリアアップを支援する取り組みには、様々な助成金が用意されている点は注目です。

また、地方自治体独自の補助金制度も見逃せません。地域の人材不足対策として、外国人材の受け入れを積極的に支援している自治体も多く、家賃補助や研修費用の一部助成、就労環境整備への補助などが受けられる場合があります。

例えば、一部の自治体では外国人材の宿舎整備に対して最大300万円の補助を行っているケースもあります。

これらの補助金・支援制度を最大限に活用するためには、情報収集と早期の申請準備が鍵となるでしょう。多くの補助金は申請期間が限られており、予算にも上限があるため、情報を常に更新しておくことが重要です。また、監理団体や登録支援機関から最新の補助金情報を入手することも効果的です。

技能実習制度を利用する場合は監理団体、特定技能制度では登録支援機関が補助金申請のサポートを行っていることも多いため、積極的に相談することをお勧めします。

さらに、複数の補助金を組み合わせて活用することで、受け入れ費用の大幅な削減も可能です。例えば、住居費用には自治体の家賃補助を、研修費用には厚生労働省の補助金を、というように最適な組み合わせを検討することで、効率的な資金活用が実現できます。

このように、特定技能と技能実習それぞれの制度に応じた補助金・支援制度を戦略的に活用することが、外国人材の受け入れを成功させる重要なポイントと言えるでしょう。

介護分野における外国人材の今後の展望

日本の急速な高齢化と生産年齢人口の減少に伴い、介護分野における外国人材の重要性は今後さらに高まることが予想されます。

特定技能と技能実習という二つの制度は、今後どのように発展していくのでしょうか。また、日本の介護業界の人手不足は実際にどの程度深刻なのか、そして必要な外国人介護士の数はどれくらいなのか。

これらの問いに対する理解を深めることは、中長期的な人材戦略を立てる上で不可欠です。

制度の変遷や将来的な方向性を踏まえながら、介護業界における外国人材の役割と可能性について考察してみましょう。

両制度の今後の展開を見据えることで、より効果的な人材確保戦略を構築することができるはずです。

日本に必要な外国人介護士の数は何人いれば充足する?

日本の介護業界における人材不足は深刻さを増しており、外国人介護士への期待が高まっています。

では、実際に日本の介護現場で必要とされる外国人介護士の数はどれくらいなのでしょうか。厚生労働省の推計によると、2026年には約25万人の介護人材が不足すると予測されています。(※1)この不足分をすべて外国人材で補うことは現実的ではありませんが、一定の割合を外国人材が担うことが期待されています。

厚生労働省によると2040年には272万人の介護人材が必要だそうです。2040年に必要な人材を確保するには、年間3.2万人ずつの増員が必要となります。(※1)

特定技能制度と技能実習制度では、その役割と位置づけに違いがあります。

技能実習制度は国際貢献の側面が強く、就労期間も最長5年と限定的であるため、継続可能な人材不足対策というよりは、一時的な人材確保と同時に国際的な人材育成という側面が強いでしょう。

一方、特定技能制度は明確に労働力不足への対応を目的としており、特に特定技能2号への移行が可能になれば、長期的・安定的な人材確保につながる可能性があります。

現状では、2023年末時点で介護分野の特定技能生は約2万人、技能実習生は約5千人程度と推定されており、目標の6万人にはまだ距離があります。(※10)今後、この目標を達成するためには、両制度の並行的な発展と、さらに時代や現場に合わせて制度を見直していく必要があるでしょう。特に特定技能制度については、特定技能2号の介護分野への適用拡大や、在留期間の柔軟化などが検討課題として挙げられています。

また、単純な数字だけでなく、質的な側面も重要です。特に特定技能生については、将来的に介護福祉士資格を取得し、より専門性の高い業務を担うことが期待されています。現在の特定技能生のうち、介護福祉士資格を取得し、日本の介護現場でキャリアを築いた割合が、今後の外国人材の充足に大きく影響するでしょう。

政府は介護福祉士資格を取得した外国人材に対する在留資格の優遇措置なども検討しており、質の高い人材の定着を促進する政策の動向にも注目が必要です。

このように、日本に必要な外国人介護士の数は単純に算出できるものではなく、制度の発展や介護業界の変化、外国人材自身のキャリアパスなど、様々な要素が絡み合っています。介護施設としては、単に量的な人材確保だけでなく、長期に渡る人材戦略を構築することが重要です。

特に、特定技能生の介護福祉士資格取得支援など、質的な向上を促す取り組みは将来的な人材不足の対策として大きな意味を持つことでしょう。

※1 引用元:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

※10 引用元:介護人材の処遇改善等 (介護人材の確保と介護現場の生産性の向上)

介護業界の人手不足は解消してる?人手不足の推移

介護業界の人手不足は依然として深刻な状況にあります。厚生労働省の推計では、2026年には約25万人、2040年には約57万人の介護人材が不足するとの予測です。(※1)

少子高齢化の急速な進行により、需要と供給のギャップは年々拡大しているのです。特に地方部では若年層の都市部への流出も相まって、人材確保の困難さが増しています。

この背景には、介護労働の特性も関係しているでしょう。介護業務は身体的・精神的負担が大きく、また賃金水準も他産業と比較して必ずしも高くないことから、介護職の離職率は常に高い水準で推移しています。

厚生労働省の「介護労働実態調査」によれば、介護職員の離職率は約14.4%で横ばいです。事業所が感じている人材の不足感は令和2年より増加傾向にあり、令和4年では66.3%となっています。(※11)これは新たな人材の確保と定着が同時に求められる難しい状況を示しています。

さらに、2025年には団塊の世代が75歳以上となり、要介護者数が急増する予測です。この「2025年問題」に対応するためには、従来の採用活動の強化だけでは不十分であり、外国人材の積極的な受け入れが不可欠となっているのです。

こうした状況から、政府は段階的に外国人材の受け入れ制度を整備してきました。現状の推移を見る限り、介護業界の人手不足は今後も継続し、むしろ深刻化する可能性が高いと言えるでしょう。

※1 引用元:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

※11 引用元:令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について

外国人介護士の必要性の高まり

外国人介護士の必要性は、単なる人手不足の補填だけではありません。多様な側面から、必要性は高まっています。

まず数の観点では、前述の通り2025年以降の急速な高齢化に伴い、介護サービスの需要は爆発的に増加する予想です。日本人だけでこの需要に応えることは困難であり、外国人材の力を借りることは避けられない状況です。

質の観点からも外国人材の価値は高まっています。多くの外国人材は母国での看護師資格や介護経験を持っており、専門的な知識やスキルを備えています。

また、異なる文化的背景を持つ外国人材の導入は、多様な価値観やケア方法を取り入れる機会となり、介護サービスの質的向上にもつながるでしょう。特に注目すべきは、近年の外国人介護士の質の向上です。送り出し国側でも日本で働くための事前教育が充実してきています。

基本的な日本語能力や介護の基礎知識を身につけた上で来日するケースが増えています。特に。フィリピンやベトナムでは日本語と介護技術を同時に学ぶ教育機関が増加傾向です。

また、施設利用者の多様化も進んでいます。在日外国人の高齢化も進み、母国語でコミュニケーションを取れる介護士の需要も出てきています。外国人介護士は同じ文化背景を持つ利用者に対して、より細やかなケアを提供できるでしょう。

このように、外国人介護士の必要性は単純な人手不足の解消だけでなく、サービスの多様化や質の向上という観点からも高まっています。今後はより戦略的に外国人材を受け入れ、日本の介護現場に定着させるための取り組みが重要です。

今後、外国人材が就労先に日本を選ばなくなる可能性はある?

日本が外国人材の獲得競争で優位性を失いつつあるという懸念が広がっています。かつては経済的優位性や安全な生活環境などから、アジア諸国の人材にとって日本は魅力的な就労先でした。

しかし近年、他のアジア諸国や欧米諸国も積極的に他国からの介護人材の受け入れを進めており、外国人材の選択肢が多様化しています。国際的な人材獲得競争が激化する中、日本の相対的な魅力が低下しているのです。

この状況は、介護分野に限らず日本全体の外国人労働者数の伸び悩みにも表れています。特にコロナ禍以降、水際対策の厳しさや在留資格更新の複雑さなどから、「日本離れ」の傾向が見られます。

また、日本語という高い言語の壁も大きな要因です。介護現場では高度なコミュニケーション能力が求められるため、N3〜N2レベルの日本語能力が必要とされますが、これは多くの外国人にとって大きな負担となっています。

一方で、シンガポール・台湾・オーストラリアなどでは英語でのコミュニケーションが可能であり、英語圏の外国人材にとっては言語的ハードルが低いことが魅力です。また、これらの国々では永住権取得や家族帯同の条件も比較的緩和されており、キャリアパスの面でも日本より有利な条件を提示できる場合があります。

こうした状況を踏まえると、今後日本が外国人材を安定的に確保するためには、制度面での改善と共に、日本で働くことの魅力を高める取り組みが不可欠です。特に、キャリア形成支援や生活面でのサポート強化、そして何より処遇改善が求められます。

この項では、具体的にどのような国々が日本のライバルとなっているのか、詳しく見ていきましょう。

ライバル国はどこ?他国との競争、給与・待遇面について

外国人材の獲得において、日本の主要なライバル国としては、以下が挙げられます。

外国人材獲得のライバル国

  • シンガポール
  • 台湾
  • 韓国
  • オーストラリア
  • 欧米諸国

これらの国々は、それぞれ異なる強みを持って外国人材を惹きつけています。強みや特徴は以下の通りです。

言語 給与 特徴
シンガポール 英語が使える 約20〜25万円程度
  • キャリアパスが明確
  • 能力によっては管理職への昇進も容易

シンガポールは、英語でのコミュニケーションが可能なため、特にフィリピンからの人材に人気があります。

言語 給与 特徴
台湾 中国語が基盤 日本より若干低い
  • 生活コストが低い
  • 永住権取得までの道筋が比較的明確

台湾では、中国語が使えるため、中国や東南アジアからの人材にとっては馴染みやすい環境です。

言語 給与 特徴
韓国 韓国語 約13万~約24万円
  • 雇用許可制
  • 東南アジアからの人材確保に力を入れている

韓国では近年、外国人材の受け入れを積極化しています。言語的ハードルは高いものの、文化的類似性や地理的近さから、アジア諸国の人材にとって選択肢の一つとなっています。

言語 給与 特徴
オーストラリア 英語圏 平均年収が約350〜450万円
  • 明確な移民政策
  • 永住権取得の道筋が明確
  • 家族帯同も比較的容易

オーストラリアは、高い給与水準に加え、多方面での魅力が多いです。特に長期的なキャリア形成を考える人材にとって魅力的な選択肢となっています。

一方、日本ではこれらの国々に比較すると、明らかな課題があります。日本の課題は以下の通りです。

外国人材受け入れに関する日本の課題

  • 日本の介護職の平均年収は約350万円程度
  • 日本語習得が難しい
  • キャリアパスが不明確
  • 在留資格の制約がある

特に特定技能制度では、基本的に家族帯同が認められていないことや、在留期間が最長5年に制限されていることが、長期的なキャリア形成を望む人材にとってはマイナス要因となっています。こうした状況を打破するためには、給与・待遇面での改善だけでなく、キャリア形成支援や在留資格制度の柔軟化など、総合的な対策が求められています。

次に、こうした課題を踏まえた上で、どのように魅力ある就業環境を整備していくべきかを考えていきましょう。

魅力ある就業環境の整備をする

外国人材に選ばれる職場づくりのためには、複合的なアプローチが必要です。まず、給与面での改善は不可欠でしょう。

単に最低賃金を満たすだけでなく、スキルや経験に応じた昇給システムの構築や、資格取得支援などのインセンティブ制度の導入が効果的です。例えば、介護福祉士資格取得時の一時金支給や、日本語能力向上に応じたボーナス制度などが考えられます。

住環境の整備も重要な要素です。多くの外国人材は来日当初、住居確保に苦労します。事業者が社宅や寮を用意するか、住居手当を支給するなどのサポートの存在は、大きな安心感になるでしょう。特に地方部では、通勤手段の確保も含めたサポートが求められます。

キャリアパスの明確化も不可欠です。「特定技能2号」への移行支援や介護福祉士資格取得へのサポート体制を整えることで、長期的なキャリア形成の見通しができます。具体的には、勉強会の開催や試験対策講座の提供、さらには受験料の補助なども効果的です。

文化的配慮も見落とせない要素です。礼拝の時間や宗教的な食事制限への配慮、母国の祝日の休暇取得の柔軟性など、異文化への理解を示すことは、外国人材の定着率向上に直結します。また、職場内での多言語対応のマニュアル整備や通訳アプリの導入なども有効です。

さらに、コミュニティ形成の支援も必要です。孤立感を防ぎ、生活の質を向上させることが求められます。例えば、地域の国際交流イベントへの参加促進や、職場内での文化交流会の開催などが考えられます。

こうした取り組みは、単に外国人材を確保するだけでなく、日本人スタッフを含めた職場全体の環境改善にも効果的です。多様な価値観を受け入れ、互いに学び合う職場文化の醸成は介護サービスの質向上にもつながるでしょう。

結果として、外国人材にとっても日本人スタッフにとっても魅力的な職場となり、人材の安定的確保と定着につながるのです。

直面する課題と解決策、今後の展望と求められる取り組み

特定技能と技能実習、これら2つの制度を効果的に活用するにあたって、介護事業者は様々な課題に直面しています。

まず、制度の複雑さと手続きの煩雑さが挙げられます。特に中小規模の事業者にとって、在留資格申請や更新手続き、各種届出などの事務負担は大きいでしょう。

また、外国人材の受入れには登録支援機関や監理団体との連携が必要であり、適切なパートナー選びも重要な課題です。

日本語教育と専門研修の両立も難しい問題です。業務を行いながら日本語能力を向上させ、同時に介護技術も磨いていくためには、体系的な教育・研修体制が必要となります。しかし、多くの事業者にとって、そのようなプログラムを独自に開発・実施する余力はありません。

さらに、近年の世界情勢の変化や新型コロナウイルス感染症の影響により、人材の送り出し国との連携にも困難が生じています。入国制限や査証発給の遅延などにより、計画通りの人材確保ができないケースも少なくありません。

これらの課題に対する解決策としては、まず複数の介護事業者による共同での外国人材受入れの取り組みが考えられます。地域内の事業者が連携し、共同で研修プログラムを実施したり、生活支援体制を整えたりすることで、個々の事業者の負担を軽減することができるでしょう。実際に、一部の地域では介護事業者協同組合などの形で、このような取り組みが始まっています。

また、デジタル技術の活用も有効です。AI翻訳ツールやeラーニングシステムの導入により、言語の壁を低くし、効率的な学習環境を提供することができます。介護記録や申し送りなどの業務においても、多言語対応システムの活用が進んでいます。

さらに、送り出し国の教育機関との連携強化も重要です。来日前から日本語や介護の基礎を学ぶ「事前教育」の充実により、来日後の適応をスムーズにできるでしょう。

一部の事業者や団体では、送り出し国に日本語・介護技術の学校を設立し、計画的な人材育成を行っているケースもあります。

今後の展望としては、特定技能2号の介護分野への適用拡大や、永住権取得への道筋の明確化など、制度面での改善が期待されます。また、介護報酬改定による処遇改善や、ICT・ロボット技術の導入による業務効率化なども進むでしょう。

求められるのは、外国人材を単なる「人手不足の穴埋め」と見なすのではなく、介護現場の多様性と創造性を高める貴重な人材として受け入れる姿勢です。言語や文化の違いをマイナスと捉えるのではなく、多様な価値観がもたらす新たな視点や発想を活かすことが、日本の介護の質を高める鍵となるでしょう。2040年に向けて、外国人材と日本人スタッフが共に成長できる持続可能な介護システムの構築が求められています。