日本国内の介護現場では、慢性的な人材不足を補う手段として、外国人介護スタッフの採用が進んでいます。しかし、言語・文化・価値観の違いから、現場でのコミュニケーションに課題を抱えるケースは少なくありません。「伝えたつもりが伝わっていなかった」「意思疎通が難しく、ミスに繋がった」といった悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。
外国人スタッフとのコミュニケーションを円滑にするには、「伝え方」だけでなく、「伝わる工夫」と「共に働く姿勢」を意識することが重要です。この記事では、介護現場における外国人スタッフとの言語・文化面の違いを理解し、現場で実践できる具体的なコミュニケーション方法や、やさしい日本語の使い方、非言語的な伝達手段、チーム全体でのサポート体制の整え方までを紹介します。
株式会社BKUのご紹介
株式会社BKUは、ミャンマーの送り出し機関と日本国内の登録支援機関を運営する人材紹介会社です。ミャンマー人材の文化・言語などの理解はもちろん、外国人材の紹介から採用、入国手続きまで一貫してサポートできることが当社の強みです。
「人手が足りない状況をどうにかしたい…」
「外国人材の採用は正直不安で…」
「本当に外国人材を採用したほうかいいのか…」
こうしたお悩みがございましたら、まずはご状況をお聞かせいただけますか?サービスの売込みは一切行いませんので、お気軽にお問い合わせください。
この記事の監修者

伊勢明敏
株式会社BKU代表取締役|日本で光学機器メーカーで研究職として4年間従事。その後ミャンマーに移住して、株式会社BKUを創業。9年間の在住中では、外国語大学と仏教大学にてミャンマーの言語・文化を専門的に学習。ミャンマーの言語・文化・制度すべてに精通した人材紹介から、累計400名以上の技能実習生・特定技能人材の送り出し実績を持つ。
外国人介護士とのコミュニケーションが課題になる理由

介護施設における外国人材の活躍が進む一方で、「うまく意思疎通ができない」「業務上の理解にズレがある」といった声が後を絶ちません。これは、単なる語学の問題にとどまらず、文化的背景や価値観の相違、職場内の連携体制の不備など、複合的な要因が絡んでいるからです。では、なぜこのような課題が生じるのでしょうか。
ここでは、外国人介護スタッフとのコミュニケーションがなぜ難しいとされているのか、背景と現場の現実に基づいて詳しく解説します。
介護人材不足と外国人受け入れの背景
日本の介護業界は今、深刻な人手不足に直面しています。特に地方を中心に、現場を支える日本人スタッフだけでは対応が難しい状況が続いており、政府は外国人材の受け入れを制度的に後押ししています。
日本の高齢化率は29%を超え(※1)、今後も増加傾向にある中で、介護職の担い手が圧倒的に不足しているからです。こうした背景から、EPA(経済連携協定)や特定技能制度などを通じて、フィリピンやインドネシア、ベトナムをはじめとする国々からの人材が急増しています(※2)。
介護現場への外国人スタッフの受け入れは、単なる「人手の補充」では済まされません。言語教育や実務指導、生活支援など、多方面にわたる受け入れ体制の整備が不可欠です。制度として人材は確保できても、現場が適切な対応をしなければ、トラブルや離職のリスクが高まります。このように、制度と現場のギャップが、コミュニケーション課題の一因となっているのです。
※1引用元:内閣府「第1章 高齢化の状況」
※2引用元:厚生労働省「「外国人雇用状況」
日本人側の“当たり前”が通じない現実
日本人同士では問題にならない言い回しや態度が、外国人スタッフにとっては理解しにくく、誤解を生むことがあります。これは、文化的前提や価値観の違いに起因するものであり、教育やトレーニングでは解決しきれないケースも多々あります。
たとえば、「そのうちお願いね」「察してほしい」というような曖昧な表現や、空気を読むコミュニケーションは、日本独自の文化です。しかし、これを当然とする態度は、外国人スタッフにとって混乱の原因になります。非言語での合図や上下関係を強調しない、柔らかな口調も、言外の意味が読み取れず、「どうすればよいのかわからない」と不安を抱かせます。
日本の“当たり前”は、国際的な現場においては通用しない可能性があるという前提に立つ必要があります。双方の違いを理解し、歩み寄る姿勢が求められるのです。
コミュニケーションが業務に与える影響
介護は、利用者の身体に直接触れる仕事であり、言葉の行き違いが思わぬ事故につながることもあります。実際、指示が正しく伝わらなかったことで、薬の投与ミスや誤ったケアが行われた事例も報告されています。
介護業務では「伝えたつもり」が「伝わっていない」ことが、致命的な事故やトラブルに発展する可能性があります。また、外国人スタッフが「質問しにくい」「自分が悪いのでは」と思い込み、ミスを抱え込んでしまうことも、事態を悪化させる要因となります。
このように、言語や文化の違いによるコミュニケーション障壁は、単なるストレス要因ではなく、業務の安全性と生産性を左右する重要課題です。適切な対策を講じなければ、現場全体の信頼関係が損なわれ、チームワークの崩壊にもつながりかねません。
介護現場で起きやすい外国人職員とのすれ違いとその原因

外国人介護スタッフと一緒に働くなかで、「話が通じていない気がする」「なぜかうまく連携できない」といった経験を持つ人は少なくありません。これらのすれ違いの多くは、単なる語学力の不足ではなく、言語構造や文化的背景の違い、非言語的な価値観の差異によって引き起こされています。
では、なぜこうしたギャップが生まれ、現場に影響を与えるのでしょうか。ここでは、実際の介護現場でよく見られる具体的な要因と、誤解や摩擦を避けるために知っておくべき視点を解説します。
日本語特有の曖昧さ・敬語の壁
日本語は曖昧な表現や敬語が多く、外国人スタッフにとって理解が難しい言語構造になっています。これは、単語や文法の難しさだけでなく、日本人独特の言い回しや気遣い表現が、意思疎通の壁となっているからです。
たとえば、「これ、ちょっとお願いね」「そのうちやっておいて」など、明確な指示ではなく、相手の判断に委ねる言い方は、外国人スタッフには「いつまでに、何をすればよいのか」が伝わりません。また、「申し訳ありませんが〜」といった敬語も、直訳すれば謝罪のように聞こえ、本来の意味と異なる解釈をされることもあります。
このように、日本語の曖昧さや敬語の使い方は、外国人にとって混乱のもととなりやすく、業務の正確性にも影響を及ぼします。言葉を簡潔に、明瞭に伝える工夫が、すれ違いを防ぐ第一歩となります。
文化・宗教・価値観のズレ
介護という仕事は、身体に触れる、私的空間に立ち入るなど、非常に繊細な行為が含まれる職種です。文化や宗教によっては、こうした行為がタブーとされることもあり、無自覚な対応が外国人スタッフに不快感や葛藤を与えてしまうケースがあります。
たとえば、同性介助が原則の国では、異性介助に対して強い抵抗感を持つ場合があります。また、日本では“時間厳守”が美徳とされますが、国によっては「多少遅れるのは当たり前」といった時間感覚を持つ文化もあります。こうした価値観の違いを理解せずに接すると、「常識が通じない」「やる気がない」と誤解されかねません。
このように、文化的な背景を理解せずに一方的な価値観で対応することは、信頼関係の構築を妨げる要因になります。多様性を前提とした接し方こそが、円滑なチーム運営への鍵となります。
表情や態度の解釈の違い
非言語コミュニケーションにおいても、日本人と外国人の間ではしばしばズレが生じます。表情や態度の捉え方には国や文化によって大きな違いがあり、それが「冷たい」「怒っている」「やる気がない」といった誤解を生むことがあります。
たとえば、日本人にとって「笑顔」は柔らかい印象を与えるものですが、ある国では「真剣な表情」が信頼を示す態度とされる場合もあります。また、視線を合わせることが礼儀とされる文化もあれば、逆に「目を合わせるのは無礼」と捉える国も存在します。こうした違いを知らずに対応してしまうと、コミュニケーションがかみ合わず、相手の本心が見えなくなってしまいます。
このように、非言語の違いは言葉以上に誤解を生みやすい領域です。相手の態度に違和感を覚えたときには、「文化の違いかもしれない」と一歩引いて考える習慣が、信頼関係の維持に役立ちます。
介護専門用語を無料で学べる「やさしい日本語」とは?

言葉の壁を乗り越えるための手段として、介護現場で注目されているのが「やさしい日本語」(※3)です。これは、外国人スタッフが日本語を母語としないことを前提に、内容を簡単・明確に伝えるために配慮された表現です。日常会話の延長では誤解が生じやすく、専門用語や婉曲表現が多い介護の現場では、なおさら必要とされるでしょう。
やさしい日本語を取り入れることで、外国人スタッフの理解度が格段に向上し、ミスやストレスの軽減につながります。ここでは、やさしい日本語の基本的な考え方や実践方法、具体的なフレーズ例、教材の選び方について解説します。
※3参考:ZENKEN介護「外国人と日本人がお互い理解し合えるやさしい施設のために~やさしい日本語~」
「やさしい日本語」の基本ルール
やさしい日本語とは、外国人が日本語を理解する際の負担を軽減し、円滑な意思疎通を実現するために工夫された「日本語の再構成」です。これは日本語を簡略化するのではなく、伝わるように“設計し直す”という考えに基づいています。
日本語には曖昧な表現、婉曲的な言い回し、難解な漢字や専門語が多く含まれており、外国人にとって非常に理解しづらい言語です。そこで、やさしい日本語を使用する際には以下のような基本ルールがあります。
- 一文を短くする
- 主語と述語を明確にする
- 外来語や慣用句を避ける
- 漢字にふりがなをつけるか、ひらがなで表記する
これらのルールを意識して話すだけでも、外国人スタッフが内容を正しく理解しやすくなります。このように、やさしい日本語は言葉を選ぶだけでなく、「どう伝えるか」に重点を置いたコミュニケーション手法です。
よく使う介護フレーズの言い換え例
介護現場では、スタッフが日常的に使用する言葉の中に、外国人には理解が難しい表現が数多くあります。それをそのまま使用すると、意図が伝わらず、誤解が生じるおそれがあります。
たとえば、
- 「ナースコールを押してください」→「このボタンを押してください」
- 「おむつを交換しますね」 → 「おむつを取りかえます」
- 「少しお待ちください」→「ちょっと待ってください」
- 「排泄介助をしますね」→「トイレを手伝います」
- 「ご気分はいかがですか?」 → 「いま、元気ですか?」
このように、やさしい日本語では専門用語や敬語を簡単な表現に置き換えることがポイントです。さらに、「〜していただけますか?」といった丁寧すぎる表現も避け、「〜してください」のように明確で直接的な表現にすることで、相手にとって理解しやすい指示になります。
表現をわかりやすく工夫することで、現場での行き違いを防ぎ、外国人スタッフも仕事を理解しやすくなります。
誤解されにくい伝え方のポイント
やさしい日本語は、「簡単な言葉で話せばいい」というだけでは不十分です。大切なのは、誤解を防ぐという視点で伝え方を考えることです。相手がきちんと理解しているかどうかを、こちらが確認する姿勢が不可欠なのです。
たとえ簡単な言葉を使っていても、相手が正しく受け取ったとは限らないため、「わかりましたか?」と聞くだけでは不十分で、「では、今から何をしますか?」と聞き返し、理解度を具体的に確認するなどの工夫も必要です。
また、否定形や二重否定を避け、「〜してはいけません」ではなく「〜しないでください」のように、できる限り肯定的・明確な言い回しにすることも誤解を避けるために大切です。このように、伝わるかどうかは話す側の責任であるという意識を持つことが、やさしい日本語の真の目的といえるでしょう。
教材で学ぶ「やさしい日本語」
やさしい日本語を学ぶための教材は、厚生労働省や地方自治体、専門学校などによって多数公開されています(※4)。最近では、介護分野に特化した教材も充実しており、イラストや音声付きで視覚・聴覚の両面からサポートする内容が増えています。EPA研修向けのテキストやオンライン講座も活用されています。
とくに『やさしい日本語でまなぶ介護専門用語集』(※5)や、『介護の日本語Can-doリスト』(※6)などは、現場での活用を想定した実用的な教材です。こうした教材は、日本語教育の専門家だけでなく、現場のスタッフが外国人とのやりとりを想定して学ぶ上でも非常に有効です。
施設で教材を取り入れて学ぶ機会をつくることで、外国人スタッフが働きやすくなるだけでなく、日本人スタッフの「わかりやすく伝える力」も育ちます。こうした取り組みは、単発の教育ではなく、職場全体で学び合える環境づくりにつながります。
※5出典:やさしい日本語でまなぶ介護専門用語集
※6出典:文化庁|生活Can-do
外国人介護士とのコミュニケーションでは「伝える」よりも「伝わる」

外国人スタッフと円滑に働くうえで、「伝えた」ことと「伝わった」ことの違いを意識することが重要です。言葉が通じるかどうかに意識が向きがちですが、本質的な課題は、相手が本当に理解し、正しく行動に移せるかどうかにあります。
「伝えること」に満足するのではなく、「伝わったかどうか」を常に確認し、コミュニケーションの精度を高める姿勢が求められます。ここでは、外国人スタッフとの実務において「伝わる」ために意識すべき3つの具体的な工夫について解説します。
ゆっくり、はっきり、短く話す
外国人スタッフに対して何かを伝える際には、「ゆっくり」「はっきり」「短く」を意識した話し方が効果的です。日本語に不慣れな人にとって、早口や複雑な構造の長文は理解の妨げになりやすいからです。
たとえば、「これをお願いできますか?時間があるときでいいので、無理しなくていいです」といった丁寧すぎる言い回しは、意味が曖昧になり、かえって伝わりづらくなります。
「これを今やってください」「終わったら教えてください」のように、短く主語・述語を明確に話すことで、相手の理解度が格段に上がります。
このように、やさしい内容であっても、話すスピードや文の長さによって、相手に与える印象と理解度は大きく変わります。「丁寧に伝える=わかりやすい」ではないという前提で、話し方そのものを見直すことが求められます。
“イエスとノー”での誤解を防ぐ伝え方
「わかりましたか?」と聞いて「はい」と返ってくることは多くありますが、それが本当に理解を示しているとは限りません。これは、外国人スタッフが「わからない」と言いづらく、周囲に気を使ってしまう傾向があるためです。
「これ、できそう?」と聞いて「はい」と答えたとしても、実際には内容を理解していないこともあります。このようなケースを避けるためには、「では今から何をしますか?」と問い返し、具体的に答えてもらう形式が効果的です。
また、選択肢を提示する方法も誤解防止に有効です。「AとB、どちらを選びますか?」と明確に選ばせることで、思い込みによるミスを防ぐことができます。このように、イエス/ノーの二択だけに頼らず、理解度を確認することが伝わる会話の基本です。
状況に応じた語彙の使い分けと意識するポイント
外国人スタッフと接するうえで、状況に応じた語彙の使い分けを意識することも非常に重要です。同じ言葉でも文脈によって意味が変わる日本語においては、相手の理解度に合わせた配慮が求められます。
たとえば、「下膳してください」と言っても、「下膳」という言葉を知らなければ意味が通じません。その場合、「使った食器を下げてください」と言い換えるだけで、伝わりやすさは格段に向上します。同様に「食事介助」という専門用語よりも、「ごはんを食べるお手伝い」の方がイメージしやすくなります。
相手の日本語の理解度に合わせて、難しい敬語や専門用語、抽象的な表現を避け、なるべく具体的で伝わりやすい言葉を使うことが大切です。こうした工夫は、ミスを防ぐだけでなく、相手を思いやる気持ちの表れでもあります。ちょっとした言葉の選び方で、現場の雰囲気や信頼関係は大きく変わってきます。
非言語コミュニケーションを味方につける方法

言葉だけでは伝えきれないことが多い介護現場では、非言語コミュニケーションの重要性がますます高まっています。特に外国人スタッフとの関わりにおいては、言語の壁を超えて理解し合うための「別の伝え方」が求められます。
その際に活用できるのが、表情やジェスチャー、視覚ツール、デジタル機器などを通じた非言語的な伝達手段です。ここでは、現場で実際に使える非言語コミュニケーションの具体的な方法と、その活用効果について詳しく解説します。
表情・ジェスチャー・指さしの活用
言葉が通じにくいとき、もっとも効果的なのが「表情」「ジェスチャー」「指さし」といった非言語的なサポートです。人は言葉以外からも多くの情報を受け取っており、表情やジェスチャー、指さしは、相手に意図を伝える強力な手段となります。
たとえば、「一緒に行きましょう」と言葉で伝えるときに、相手の方向を指差しながら笑顔で話しかけることで、意図がより明確になります。また、「トイレはこちらです」と口頭で言うだけでなく、手で方向を示すことで、言葉が伝わらなくても意味を補完できます。表情も大切で、笑顔やうなずきは安心感を与え、緊張をほぐす効果があります。
さらに、現場全体で使うジェスチャーを統一しておくことで、スタッフ間の意思疎通もスムーズになります。このように、視覚的な動作を交えた伝え方は、言語だけに頼らない双方向の理解に役立ちます。
絵カード・ピクトグラムの活用
視覚的に伝える手段として、絵カードやピクトグラムは非常に有効です(※7)。イラストや図で表現された情報は、言語に関係なく直感的に理解されやすいからです。
たとえば、「食事」「入浴」「服を着替える」といった行動を示した絵カードを使えば、口頭での説明が難しい場面でも意図が伝わります。最近では、多言語に対応した絵カードセットも市販されており、外国人スタッフの母国語に合わせて併用することで、相手の母語でも確認でき、理解を深めることができます。
また、絵カードを全員で共通して使うようにすると、施設内での伝え方が統一され、混乱を防ぐことにもつながります。こうした視覚的なツールを日常的に活用することで、外国人スタッフがより安心して業務に取り組めるようになります。
※7参考:医療看護支援ピクトグラム9アイテムの運用
翻訳アプリ・デジタルツールの現場活用
近年のデジタル技術の進化により、翻訳アプリや専用の音声端末が介護現場でも活用されるようになっています。これらは、言葉の壁を一時的に補うツールとして非常に心強い存在です。
音声翻訳機「POCKETAL(ポケトーク)」(※8)を使うことで、指示や会話の内容をリアルタイムで翻訳し、相手の母国語で伝えることができます。こうした機器を使えば、日本語スキルが十分でないスタッフでも、業務をスムーズに進められるようになります。
ただし、発音や文法が正確でないと誤訳されることもあります。過度に翻訳機に依存するのではなく、やさしい日本語やジェスチャーと併用するなどあくまで補助的に使うことが望ましいでしょう。このように、デジタルツールを活用することで、現場全体の生産性と安心感を高めることができます。
※8参考:AI通訳機ポケトーク対応言語一覧
外国人介護士に使うとNGな言葉とその理由

日常的に使っている何気ない言葉が、外国人スタッフにとって誤解や不快感を生むことがあります。これは、日本語の多義性や曖昧な表現、さらには文化的背景の違いによって、言葉が本来意図した内容とは異なる意味で伝わってしまうためです。
たとえ丁寧なつもりでも、その言葉が命令や否定的なニュアンス、あるいは人格を否定するように受け取られることもあり、結果として信頼関係に亀裂が入るリスクになります。ここでは、介護現場で避けるべき言葉やその理由、そして代替となる表現方法について具体的に解説します。
誤解を生みやすい表現
外国人スタッフとの日常会話では、「日本人同士なら問題なく通じる表現」が、伝わらない・誤解されることが多くあります。特に注意が必要なのは、内容があいまいで、具体性に欠ける依頼表現です。
たとえば、「ちょっとやっておいてね」「空いてるときでいいから」といった曖昧な依頼表現は、「今すぐなのか?」「具体的に何をするのか?」と混乱を生みやすい典型です。また、「まあ、適当にお願い」など、責任範囲を明示しない言葉は、外国人スタッフにとって非常に不安を感じさせる原因となります。
このように、具体性を欠いた言い方は、「伝えたつもり」でも伝わらないことが多く、業務ミスやストレスに繋がりやすくなります。わかりやすさを意識した言葉選びが、誤解を防ぐ第一歩です。
無意識に失礼になる言い回し
無意識に使ってしまう言い回しの中には、外国人スタッフの心に負担を与えてしまうものもあります。特に、命令口調や断定的な表現は、「言われた内容」よりも「言い方」で気持ちが傷つくことがあります。
たとえば、「やっておいてよ」「分かってるでしょ?」という言葉は、相手にとって命令のように聞こえたり、責められているように感じたりすることがあります。また、「なんでできないの?」「普通はこうするでしょ?」といった表現も、文化や習慣の違いを否定されたように感じることがあり、信頼関係を損なうきっかけになりかねません。
文化によっては、上下関係や否定表現にとても敏感な人もいます。職場では常に相手の文化的背景を尊重し、感情に配慮した言葉遣いを心がけることが、人間関係を円滑に保つ鍵となります。
相手を尊重する言い換えと表現のコツ
誤解や摩擦を防ぐためには、伝わりやすく、かつ相手に配慮した言い換え表現を身につけることが重要です。大切なのは、「簡単で具体的な言葉」を選び、「敬意を持って伝える」ことです。
たとえば、
- 「これ、やってもらえる?」→「これを15時までにお願いします」
- 「時間ある?」→「今、少しお話しできますか?」
- 「だめ、それは違うよ」→「こうした方が安心です」
このように、具体的な行動+敬意ある表現に変え、 『相手が何を求められているのかを明確にする』『感情的にならない』『肯定的に伝える』ことがポイントです。また、伝えた後に「ここまでで分からないことはありますか?」と確認する姿勢を持つことで、相互理解を深めるきっかけにもなります。
言葉は相手を動かす「道具」であり、「配慮」や「敬意」を込めた言葉遣いこそが、多文化チームにおける信頼の土台となります。
介護現場でうまくいった外国人職員とのコミュニケーション例

外国人スタッフとのコミュニケーションには確かに難しさがありますが、一方で、試行錯誤を重ねながら信頼関係を築き、うまく連携している現場も数多く存在します。重要なのは、「何を伝えたか」だけではなく、「どう伝えたか」、そして「どう受け取ってもらえたか」に着目し、継続的に工夫を重ねていく姿勢です。
ここでは、実際の介護施設で行われた成功事例をもとに、言葉の壁や文化の違いを乗り越えたコミュニケーションの工夫とその効果について紹介します。
チームで言葉を共有し信頼が生まれた例
東京都内にある社会福祉法人 聖風会では、外国人スタッフとの意思疎通を円滑にするために、「共通の言葉」を現場で統一する取り組みを実施しています(※9)。背景には、日本人スタッフごとに異なる言い回しや表現が使われることで、外国人スタッフが混乱しやすいという課題がありました。
そこで同法人では、介護現場で使われる専門用語や業務フレーズをシンプルで分かりやすい言葉に言い換えた「共通フレーズ集」を作成し、フロアやスタッフ間で共有。たとえば、「排泄介助」や「離床」などの言葉を平易な表現に統一することで、外国人スタッフがスムーズに理解・行動できる環境づくりを進めました。
これにより、外国人スタッフからは「次に何をすればいいかがわかりやすくなった」「誰からの指示でも意味が一貫していて安心できる」といった声が上がり、業務の理解度が向上しただけでなく、定着にも良い影響があったとされています。
このように、現場の言葉を統一し、チームで共通の表現を使うという工夫は、単なるマニュアル化にとどまらず、相互の信頼関係を深める有効な手段となっています。
※9出典:マイナビグローバル「外国人スタッフのために“共通の言葉”を作るという発想」
翻訳アプリを活用したコミュニケーション例
北海道のデイサービス施設「ワンダーストレージHD」では、日本語での意思疎通に課題を抱える外国人スタッフの支援策として、音声入力型の翻訳アプリを導入しました(※10)。目的は、業務中のコミュニケーションミスを減らし、スタッフ同士が安心して連携できる体制を整えることでした。
現場では、日本人スタッフが話す内容を翻訳アプリに音声入力することで、スタッフの母語に翻訳され、内容の理解に役立ちます。外国人スタッフ側もアプリを通して、自分の意見や質問を伝えることができるため、双方向でのやりとりが円滑になりました。
また、同施設では翻訳ツールだけに頼らず、「やさしい日本語」を日常的に使う文化づくりにも取り組んでいます。漢字に不慣れなスタッフが多いことを考慮し、利用者の名前をローマ字で書くなどの工夫も行っています。
このように、翻訳アプリと対人コミュニケーションの両輪で支援体制を整えることで、外国人スタッフが安心して働ける環境づくりに成功しています。
※10出典:ワンダーストレージホールディングス株式会社
風通しの良い職場が安心につながった例
愛媛県にある介護老人保健施設「アンビションうちこ園」では、外国人スタッフが安心して意見を言える風通しの良い職場環境づくりに力を入れています(※11)。この施設では、「外国人だからといって遠慮させない」「言葉の壁を理由に排除しない」という明確な方針のもと、日常的に双方向のコミュニケーションが行われています。
とくに印象的なのは、外国人スタッフも交えた全員参加の定期ミーティングです。ここでは「困っていること」「業務の改善点」などを誰もが発言できる雰囲気づくりを意識しており、言語の壁を感じさせないよう、必要に応じて絵やジェスチャーも交えて説明するなどの工夫がされています。
こうしたオープンな文化により、外国人スタッフの不安は徐々に解消され、自信を持って意見を出せるようになりました。その結果、提案力や判断力といったリーダーシップ資質が育まれ、実際にチームリーダーを任されるスタッフも現れています。介護職としてのスキルアップと共に、職場への定着率向上にもつながっています。
※11出典:医療法人 大志会 介護老人保健施設アンビションうちこ園
外国人介護士がコミュニケーションで感じているリアルな本音

日本の介護現場で働く外国人スタッフたちは、言語や文化の違いを超えて懸命に職務を果たしています。しかし、制度やマニュアルでは解決できない“見えない壁”が、信頼関係の構築や職場への定着に影響しているのも事実です。
ここでは、実際に現場で働く外国人スタッフのリアルな声をもとに、彼らが抱えている本音や感じている課題をみていきます。
外国人介護士の半数が感じている言葉の壁
ある介護人材の就業支援を行う業者が2024年に実施したアンケート調査によると、特定技能として働く外国人介護士の約45.6%が「日本語でのコミュニケーション」、41.2%が「日本語での記録」(※12)に困っていると回答しています。
一方で、同調査では85.3%が「今後、介護福祉士資格を取得したい」と回答しており、日本でのキャリアに前向きであることもうかがえます。また、 「これからどのぐらい日本で働きたいですか?」という問いには、できるだけ長くと回答した人が61.8%と、圧倒的に多い結果でした(※12)。
このように、言語や生活面の壁によって「不安」を抱えながらも、多くの外国人介護士が高い成長意欲を持っていることが分かります。
※12引用元:介護ポストセブン「特定技能として働く外国人介護士へのアンケート調査」
コミュニケーションに課題を感じながらも仕事への高い満足度
また、山形県が2023年8月から9月にかけて実施した調査によると、県内の介護施設で働く外国人スタッフの約80%が「日本語での会話に困難を感じている」と回答しました(※13)。
この調査は、ミャンマーやベトナムなど8か国出身の外国人介護スタッフ153人を対象に行われ、141人が回答しました。「日常生活での日本語がわからず困ったことがある」と答えた人は79.5%にのぼり、読み書きの面でも89%が「困っている」と感じており、言語面での課題が浮き彫りになっています(※13)。
一方で、仕事に対する満足度は高く、「満足」「やや満足」と答えた割合が合計で80%に達しています。上司やスタッフがサポートしてくれることや、仕事にやりがいを感じることが理由として挙げられており、受け入れ側の支援体制が職場への定着や意欲の維持に寄与していることがうかがえます。
※13引用元:YOLO WORK「山形県、外国人介護職員の8割が日本語でのコミュニケーションに困難」
思ったよりももろい、言葉の壁
ある介護施設では、受け入れ前に勉強会を開いて対応策を話し合うなど、慎重に準備を進めていました(※14)。利用者や同僚とコミュニケーションがとれるのか、日本の文化や習慣になじめるのか、受け入れることで逆に現場の負担が増すのではないかといった懸念があったからです。
受け入れ側が心配する反面、外国人スタッフに尋ねると、返ってきたのは「日本に来て困ったことはなかった」という意外な答えでした。
もちろん、本当に一切困らなかったわけではないでしょう。冬の寒さや施設の高齢者が話す方言の強い日本語でコミュニケーションをとる環境で、苦労や戸惑いもあったはずです。それでも彼らは、言葉が完全に聞き取れない場面でも明るく前向きに仕事に取り組み、元気な笑顔で利用者や同僚に接しているといいます。受け入れ側が心配していた「言葉の壁」は、思ったよりももろい、ということに気付かせてくれるケースです。
※14引用元:THE GOLD LINE「思ったよりもろかった「言葉の壁」…〈外国人介護人材〉の採用が現場にもたらす大きなメリット」
特別養護老人ホームで働くネパール人介護職員のケース
特別養護老人ホームで働くネパール人のGさんは、来日後、日本語学校と短大の介護福祉科で学び、介護の現場で働いています。「最初は戸惑うことも多かったけれど、日本語学校にいた友人たちとみんなと一緒だったので、あまり困ったと感じたことはことはないです。」と語っています。
就職後は、指導者が2カ月間つき、3か月目に独り立ちしました。漢字にふりがなが付いたマニュアルが整備されており、指導も、「いくつかのやり方でやりやすい方法が取れるように指導や指示を出してくれる」と話しています。利用者やスタッフとの関係についても、「みんな優しいです。職員さんもご利用者もみんな優しい。ここが大好きです。」と答えており、受け入れ側の丁寧なサポートが、コミュニケーションを良好にしているケースと言えるでしょう(※15)。
※15引用元:caps「外国人介護人材の今/実際に介護の現場で働く彼女たちのリアルな声」特養で働くGさん
デイサービスで働くミャンマー人介護職員のケース
デイサービスで働くミャンマー人のMさんは、2020年にミャンマーから技能実習生として来日し、2023年には特定技能1号へと移行しました。来日前にはミャンマーの学校で日本語や介護の基礎を学んでおり、就職先も決まっていたので、それほど不安はなかったと言います。
「日本に来てからは、言葉や文化の違う外国で仕事をすること、実際に介護をするということの難しさを実感しましたが、それと同じくらい楽しかったです。」「ご利用者も職員もとても優しいですし、地域や会社、受入れ機関の人たちの支援もとても助かっています。」と語っています。
3年間の技能実習を経て現在は特定技能1号として働いており、介護福祉士の資格取得を目指して、初任者研修を受けています。職場環境の良さが、人材育成につながっているケースでしょう(※16)。
※16引用元:caps「外国人介護人材の今/実際に介護の現場で働く彼女たちのリアルな声」DSで働くMさん
介護外国人材を受け入れるための体制づくり

外国人介護人材を受け入れる施設にとって、最も重要なのは、現場に「受け入れる準備」ができているかどうかです。言語だけでなく、制度、研修、文化理解、労務環境など、包括的な体制が整備されていなければ、実習生の定着は困難です。
一時的な対処ではなく、長期的に共に働く仲間として迎えるためには、施設全体として「共育(=共に育てる)」の意識が求められます。ここでは、受け入れ体制を整えるために重要な5つの視点から、実践的なポイントを紹介します。
指導に役立つ資格や知識
外国人介護スタッフを現場で受け入れる際には、日本人スタッフが指導・サポートする立場になることが多くなります。その際に求められるのは、介護スキルの高さだけではありません。言語の壁や文化の違いを乗り越えるための「伝え方」や「配慮の仕方」についての知識や意識も欠かせない要素です。
たとえば、日本語教育の基礎や異文化理解に関する知識を持っていると、外国人スタッフとの会話がスムーズになるだけでなく、相手の戸惑いや不安を和らげることにもつながります。中でも、「やさしい日本語指導者養成講座」(※12)や「介護福祉士実務者研修」(※13)などの研修や資格は、指導の幅を広げるうえで非常に有効です。
また、言葉の伝え方だけでなく、外国人雇用に関する制度(在留資格・労務管理・就労ルールなど)への理解も、トラブルを未然に防ぐために重要です。厚生労働省や入管庁が提供する研修資料や動画なども積極的に活用しましょう。
このように、制度や言語、文化を正しく理解した上で、介護現場の実情に即した対応ができることが、外国人スタッフの定着や成長を支える大きな力となります。日本人スタッフ自身が「学ぶ姿勢」を持つことが、現場の信頼関係づくりの第一歩です。
※12参考:東京都多文化共生ポータル「やさしい日本語リーダー 養成研修」
※13参考:三幸福祉カレッジ
マニュアル・研修の整備
受け入れ施設としてまず取り組むべきは、外国人スタッフにも理解できる形式でのマニュアルと研修内容の整備です。現場での対応がその都度「口頭」に頼っていると、指導のばらつきや属人的な伝達が避けられないからです。
専門用語の言い換えリストや、ピクトグラム入りの手順マニュアル、OJT(現場研修)で使用するロールプレイ資料などを整備することで、視覚的にも理解を促すことができます。「やさしい日本語」を用いた説明資料を活用すれば、日本語学習中のスタッフでも安心して研修を受けられます。
このように、誰が教えても内容に相違がない環境を整えることで、実習生の学びが効率化され、教える側の負担軽減にもつながります。
介護記録の共有方法をデジタル化
介護現場で外国人スタッフとの情報共有の正確性を高めるには、介護記録のデジタル化が有効です。介護記録は外国人にとってハードルが高いものであり、紙の記録では手書きの文字や漢字が読みにくく、理解に時間がかかるうえ、ミスも起こりやすいためです。
たとえば、介護記録ソフト「CareViewer」のようなクラウド型システムでは、チェック形式で記録できるため、言語の壁を軽減できるだけでなく、記録ミスの防止にもつながります。音声入力や多言語対応に優れた製品もあり、現場での即時共有が可能です。
このように、デジタルツールを活用することで、業務の効率化と情報の正確性を確保し、外国人スタッフが自信を持って仕事を進められる環境が整います。操作方法の研修やマニュアルを整備することで、より一層安心して業務に就くことができるでしょう。
※12出典:CareViewer
一人ではなく「チームで伝える」意識づくり
外国人スタッフの指導を一人の担当者に任せきりにしてしまうと、フォローが属人化し、トラブル時の対応が難しくなります。重要なのは、施設全体が「チームで育てる」という意識を持つことです。
週に1回のケース会議で外国人実習生の状況を共有したり、交代制でサポート担当を決めたりすることで、指導の偏りを防ぐことができます。さらに、伝達内容を全体で統一するために、共通用語集や定型フレーズの共有も効果的です。
このように、個人任せにせず「皆で支える」体制をつくることで、指導側にも安心感が生まれ、実習生の孤立を防ぐことができます。
施設の制度・生活環境の整備
外国人スタッフを受け入れる際には、職場環境の整備だけでなく、生活面のサポート体制を整えることも重要です。言語や文化の違いよりも、日本での暮らしそのものに慣れないことが、大きなストレスとなり、離職へとつながってしまいます。
たとえば、施設内のルールや職場でのマナーについては、「やさしい日本語」で書かれたガイドを用意することで、理解を促しやすくなります。通勤ルートの案内や、近隣のスーパー・医療機関の情報、宗教や文化的背景に配慮した食事対応なども、安心して生活するための大切な支援です。
また、有給休暇や就業規則など、働くうえでの基本的なルールについても、丁寧に説明する時間を設けることで、不安や誤解を防ぐことができます。
このように、「働きやすさ」だけでなく「暮らしやすさ」にも目を向けることが、外国人スタッフの安心感と長期的な定着につながる鍵となります。
介護の現場に必要なのは、共に歩むコミュニケーション

外国人スタッフとのコミュニケーションを考えるうえで、「どう伝えるか」ばかりに注目しがちですが、本当に必要なのは「どう寄り添うか」「どう共に理解し合うか」といった姿勢です。介護の現場は、チームで利用者の生活を支える共同作業の場であり、一方的な指導では成立しません。
外国人スタッフもまた、一人の対等な仲間であり、共に働くパートナーです。言語や文化の違いを超えて歩み寄り、互いの価値観を尊重する姿勢が、信頼関係を築き、現場の安定やサービスの質向上につながります。
「伝える工夫」だけでなく、「どう受け取るか」や「相手の声に耳を傾ける姿勢」を意識することで、外国人スタッフも自信を持って意見を述べやすくなり、チームの一員として主体的に関わるようになります。さらに、日本人スタッフにとっても、自分の伝え方や相手への理解力を見直すきっかけとなり、職場全体のコミュニケーション力が高まります。
単なる労働力としてではなく、「共に支え合う仲間」として外国人介護人材と向き合うことが、これからの介護現場における持続可能な関係づくりに不可欠です。多様性を受け入れ、互いを尊重し合いながら成長する。その姿勢こそが、真の意味で「共に歩むコミュニケーション」と言えるのではないでしょうか。